その18 自然免疫(innate immunity)を鍛えましょう
日々の気温が20度を下回るようになり、すっかり秋めいてきました。今年も秋は短そうで、酷暑の夏から厳寒の冬へ向かおうとしています。

10月になりインフルエンザワクチン接種が始まりましたが、今年の冬は新型コロナウイルス感染症の影響で、単なる風邪では済まされない悩ましい時期に突入します。新型コロナウイルス治療薬アビガンは今月中にも認可されそうですが、ワクチンの認可は年内には難しそうです。

そこで今回のテーマは自然免疫(innate immunity)です。自然免疫とは我々が生まれながら備え持っている、外敵(細菌、ウイルス、寄生虫など)に対する非特異的な身体防御システムです。それに対して、特異的な防御システムを獲得免疫(acquired immunity)といい、これは麻疹(はしか)や水痘(水ぼうそう)など特定なウイルスや菌に対する「抗体」を指します。

また、インフルエンザウイルスやコロナウイルスは一本鎖RNAウイルスに分類されますが、非常に変異を起こしやすいので、獲得免疫(抗体)が産生されにくいと言われています。抗体を作っても相手のタンパク質がコロコロ変わって対応できないからです。そのような場合は自然免疫の段階で、つまり粘膜でマクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞などが活躍して殺菌します。

今年の冬はインフルエンザやコロナから体を守るため、自然免疫を大いに強化する必要があります。どうすればいいのでしょうか。一般的には食事、睡眠、飲酒・喫煙を控える、適度な運動などが推奨されます。

私は医師になって32年間、日曜以外診療を休んだことはありませんが、年に1~2回は風邪をひきます。それは決まって深酒をした翌日か寝不足が続いた時です。酔っ払って口を開けて寝ていると、喉の粘膜がカラカラに乾燥して、局所の免疫力が極端に低下します。

一方で、寝不足になると脳からコルチゾールというストレスホルモンが放出されて、白血球の働きが抑えられてしまうのです。ちなみに白血球が働きすぎても、関節リウマチや喘息、花粉症のように体に余計な炎症を起こすので困ります。このような時は、逆にコルチゾールのようなステロイドホルモンで白血球の働きを抑える治療が行われます。

今回は自然免疫を高めるため、ストレスホルモンであるコルチゾール(cortisol)を減らしましょうという話です。

コルチゾールは血管を収縮させ血の巡りが悪くなり、白血球の働きを抑えるため色々な病気にかかりやすくなってしまうのです。体内のコルチゾールを下げるには、

1)適度な睡眠・運動をこころがける。
2)野菜・キノコ類を多めにとる。
3)イライラしない、心にゆとりを持つ。感謝の気持ちを持つ。
4)リラクゼーション(ヨガ・瞑想)を行う。
5)楽しいことをする。笑う。
6)友達、家族との付き合いを大切にする。
7)植物や動物の世話をする。
8)自らの力不足を勉強して補う。悪い習慣(2度寝、長時間のPCゲーム)を正す。
9)信心する(神社やお寺、お墓やお仏壇にお参りをする)。
10)深酒しない(自戒)。飲酒を控える。

などの方法があります。1)から7)まではよく言われる事ですが、8)や9)はやってみるとストレス解消になりそうですね。

自然免疫を鍛えて今年の冬を元気に乗り越えましょう。

以上です。

下記サイトを参考に改変しました。
https://www.healthline.com/nutrition/ways-to-lower-cortisol#TOC_TITLE_HDR_2
2020.10.07 19:39 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その17 今年の冬に備えるワクチンのお話
今年の冬は新型コロナとインフルエンザの両方を注意しなければなりません。特に前者は今のところ治療薬がありませんので、予防が大切になってきます。

結論を先に書きます。今年の冬に備えて予防接種をうちましょう。今回お伝えしたいことは3つです。

1)日本脳炎ワクチンの追加接種(19歳以上の方全員)8000円前後 1回

2)13価肺炎球菌ワクチン(年齢制限なし。基礎疾患のある方)10000円前後 1回

3)インフルエンザワクチン (10月から開始、6ヶ月~12歳は2回、13歳上1回)4500円前後

3)の前に1)2)を受けておくことが望ましい。同時接種可能。私も先週うちましたw。

理由を述べます。

1)最近日本脳炎ワクチンが、新型コロナウイルス感染症に交差免疫を認める可能性が報告されています。日本脳炎の定期接種は、日本、中国、韓国、台湾、マレーシア、タイ、スリランカ、ベトナム、ネパールで行われています。そしてこれらの国では、新型コロナウイルス感染症の死亡率が低いのです。日本国内で唯一定期接種されていなかった北海道(平成28年4月より定期化)では、日本国内で最初に緊急事態宣言が出されたのは記憶に新しいと思います。

日本脳炎ワクチンは2-3歳で2回、4-5歳で1回、9歳で1回接種しますが、その後追加接種は任意となっています。ほとんどの方が最終接種から10年以上経過していると思いますので、ぜひ追加して効果増強(ブースト)を図ってください。

日本脳炎ウイルスは、新型コロナウイルス感染症と同じ一本鎖+(プラス)鎖RNAウイルスです。遺伝子の設計図が1本のRNAからできていて、細胞内に感染するとRNAが細胞内でタンパク質を作る非常に似通ったウイルスです。
日本脳炎ワクチンは不活化ワクチンといって、ウイル粒子をバラバラにして投与するので、副反応もほとんどありません。

2)肺炎球菌ワクチンは、風邪をこじらせた際の肺炎を防ぐワクチンです。風邪の原因はウイルスですが、症状が長引くと免疫力が低下するため、細菌感染を起こしやすくなります。肺炎球菌ワクチンには2種類あります(平成25年まで使用されていたプレベナー7(PCV7)を入れると3種類)。プレベナー13(肺炎球菌結合ワクチン:PCV13)とニューモバックス(肺炎球菌ポリサッカライドワクチン:PPSV23)です。

肺炎球菌は90以上の血清型があり、乳幼児の鼻腔常在菌で、免疫力が低下したときに中耳炎や髄膜炎の原因になります。ワクチンに示されている数字は含まれている血清型の種類です。日本では平成23年に4歳下の乳児幼児に対してPCV7の定期接種が始まり、平成25年には7価から13価へ変更されています。

一方ニューモバックスは多くの自治体で65歳以上から公費負担されている定期接種です。添付文書上は2歳以上から接種することができ、高齢者に限らず、喘息や糖尿病など基礎疾患を有する方は、任意で接種することが望ましいと言われています。一方、既にニューモバックスをすでに受けた方でも、1年以上あけてプレベナーを接種することが推奨されています(米国では先にプレベナーを接種し、1年後にニューモバックスを接種。日本ではどちらが先でもいいとされています)。

繰り返しになりますが、基礎疾患(喘息、高血圧、糖尿病)がある方は、65歳まで待たずに早めに受けた方が良いと思います。順番はまずプレベナー13、1年から4年後にニューモバッックスです。

3)インフルエンザワクチンは毎年2~6月に決定され9月までに生産されます。A型は膜蛋白H16種類、N9種類で計144種類に分かれます。B型はビクトリア型、山形型の2種類です。毎年のワクチンはA型2種類、B型2種類が含まれた4価のワクチンです。今年の生産量は約3000万本(大人換算で6000万人分)と例年通りの量ですが、新型コロナの影響で希望者が殺到することが予想されます。
多少のお金がかかっても必要なワクチンは済ませておきましょう。そうしないとあとからお金と時間がとられます!
以上です。
2020.09.01 19:38 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その16 低気圧に伴う頭痛 (barometric pressure headaches)
今日は頭痛の話です。

頭痛のうち、外傷、血管障害、腫瘍、感染、薬剤(アルコール含む)、高血圧、風邪などの原因がないものを1次性頭痛と分類し、その中には片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛などがありますが、これらがオーバーラップする病態もあるため、確定診断は困難です。

梅雨や台風の時期になると「低気圧の前に頭痛がひどくなる」「頭痛の翌日は天気が悪くなるのがわかる」などと訴える人が多くなります。

頭痛の原因としては
心理的ストレス(79.7%)
女性のホルモン変化(57.3%)
空腹(57.3%)
天気(53.2%)
不眠(49.8%)
その他光、騒音、匂い、食事、飲酒などが引き金になります。

自律神経の興奮が興奮すると体内の血管が収縮する反面、脳血管が拡張することで、頭蓋内圧が高まり頭痛をきたします。また生理前の女性は体内の血液量が多くなるため(むくみやすい)、脳の圧力がさらに高くなります。

対処法としては、リラクゼーション(交感神経の働きを弱める)、利尿薬(五苓散やフロセミドでむくみを取る)、予防的な鎮痛剤の内服(生理前または低気圧前には頭痛が起こる前にイブなどを1日3回服用しておく)などがあります。

空腹と同じ原理ですが、脱水状態になっても自律神経の興奮でアドレナリンが分泌されるため、頭痛の原因となります。

今年は梅雨明けは8月に入ってからで、これからが夏本番になります。自律神経を緩める訓練をして、体調管理をしましょう。

以上です。
2020.08.08 19:38 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その15 新常態の働き方 The new normal for offices
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的大流行(pandemic)により、我々の生活がガラリと変わってしまいました。pandemic後の新しい生活様式を新常態(new normal)とかポストコロナなど表現されますが、元々は2007年のリーマンショック後の経済活動変化を指す言葉だったとのことです。

その特徴は、1)ソーシャルディスタンス、2)3密の回避、3)テレワーク、4)オンライン、5)キャッシュレスなどに代表される生活様式です。先日もディズニーランドが4ヶ月ぶりに開場されましたが、入場を待つ人々は地面の足跡マークに間隔を開けて並び、ディズニーキャラクターもソーシャルディスタンスを守って踊っていました。

COVID-19の国内発生は2月中旬ですが、駅のホームから「時差出勤やテレワークを努めるよう」アナウンスされていました。そのころは、テレワークなんて無理だろう、などと思っていましたが、4月7日の非常事態宣言からテレワークをする企業の割合が増えてきて、中には会社には2ヶ月ぶりに来ましたなどという患者さんもいます。

新常態の働き方はどう変わるのでしょうか。
三菱総研によるとキーワードは、     
1)集合型から分散へ
2)リアルからバーチャルへ
3)対人緊張から孤独化へ

それぞれのキーワードをもう少し掘り下げてみましょう。
1)人々が集団を避け、リモートワークが導入されると、働き方に新しいストレスが生じます。日本では欧米(50%)に比べ、リモートワーク率が低く(23%)、リモートワーカーと出社者の間に生じる心理的な障壁が問題になっています。パーソル総研(2020年6月20日)のアンケートでは、出社者の40%以上がリモートワーカーに対して不公平感や怠勤の疑念を持っているとのことです。

2)働き方がリアルからバーチャルになると、①仕事の評価、②コミュニケーション、③仕事の割当方などに戸惑いを感じる場合が多くなっています。特にデジタルコミュニケーションは対面コミュニケーションと比べ、相手の視線や仕草などが認識されにくいので、仕事後の疲労感および消耗感が強いとの研究があります。

3)在宅勤務で対人接触が減ると人々の気持ちは内向きになります。コロナ鬱と呼ばれる気分の落ち込みが問題になっています。対策としては、友人や家族と密に連絡を取る、自然や動物に接する、有酸素運動を行う、などがあります。

内閣府(令和2年5/25から6/5まで 1万人へのインターネット調査)によりますと、調査期間中テレワークを行った割合は36.4%ですが、その内80%以上の人がテレワーク継続を希望しているとのことです。ただし、テレワークによって効率が上がったと回答した人は9.7%と限定的であり、日本の働き方はまだまだ発展途上と言えます。

新常態の働き方は、社内で新たなストレスが生まれやすい状態です。一方で時間節約や生産効率を高める可能性を有しています。皆で知恵を絞り、一つ一つの課題をクリアして、令和時代の新しい働き方を確立しましょう。

以上です。
2020.07.06 19:37 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その14 健康診断と人間ドック
新型コロナウイルスの話題が続きましたので、今回は健康管理についてまとめてみました。
労働安全法により事業主は労働者に雇い入れ時と年に1度の定期健康診断を義務付けています。費用は会社負担です。

それ以外に健保組合などの助成金を利用して、個人的に予約をして人間ドックを受ける方もいると思います。胃カメラ、大腸カメラ、腹部超音波、マンモグラフィー、脳ドックさらにはCTによる内臓脂肪などをオプションにつける方もいます。ところが最近は過剰な検査が問題になっています。

今日のテーマは、「健康診断のオプションはどの程度つけたらいいのか」 という話です。

まずがん検診についてです。現在わが国で広く行われている5部位の 癌検診(胃・大腸・子宮・乳房・肺)。そのうち無作為比較試験で有効性が認められているのは、大腸がん(便潜血)と乳がん(マンモグラフィ)の検診ですが、その効果(死亡率減少)は13~36%と微々たるものです。

最近問題になっているのは、以下のようながん検診の不利益です。

1)偽陽性
検査の精度は100%ではありませんから、がんではない人に「がんの疑いあり」という「偽陽性」と呼ばれる結果が出ることがあります。

2)レングス・バイアスド・サンプリング
進行が遅いがんは早く見つかるが、進行の早いがんは年に一度の検診から漏れてしまう。進行に20~30年かかるものを早期に見つけてしまうと、もしかしたら死ぬまで問題にならなかったものまで治療することになります。一方で「毎年検診を受けていたのになんで見つからなかったんだ」と悩むことになります。

上記のような、「過剰診断」「過剰治療」が問題になっています。見つけなくてもいい癌を見つけて、必要のない治療が行われるという意味です。賢明な国民はそのようなことを認識しているのかどうかわかりませんが、がん検診受診率は肺がん検診を除いて50%未満です。以下に厚労省が提唱するがん検診と男女別の受診率、米国の基準を示します。米国では検診対象者の年齢に上限があります。

◯肺がん (男51%、女41%)
(厚労省)40歳以上。毎年胸部X線および喀痰細胞診 
(米国)55歳から80歳で、ハイリスク男性患者(喫煙20本20年以上、禁煙して15年以内、)にLDCT(Low Dose CT 線量が10分の1 (1 mSv)検査を行う。

◯胃がん (男46%、女35%)
(厚労省)50歳以上。バリウム検査か上部消化管内視鏡、2年に1度、ABCD検診でAの人は不要。
(米国)特に定めなし。

◯大腸癌がん  (男44%、女38%)
(厚労省)40歳以上。毎年便潜血検査 
(米国)50才以上75歳以下の人は毎年便潜血検査。大腸ファイバーは異常がなければ10年に一度で十分。

◯乳がん  (受診率45%)
(厚労省)40歳以上。2年に1度マンモグラフィー(触診、視診は推奨しない)
(米国)50歳から75歳まで2年ごとにマンモ. 家族歴のある人は40代前半で行う。

◯子宮がん  (受診率42%)
(厚労省)20歳以上子宮頸部の細胞診および内診、2年に1度
(米国)21歳以上で始め、陰性であれば3年後。30から65歳の人も検査を行い陰性であれば、3年後に行う。HPV テストが陰性だった場合は5年毎に行う。

有効性が否定的な健診
<腫瘍マーカー> 擬陽性が多い。腫瘍の治療経過の指標とし用いる。
<消化管バリウム造影> 粘膜の色合いが不明であり、バリウムによる便秘や胃もたれが多い。X線被爆が問題となる。
< CTによる内臓脂肪> X線被爆が問題となる。
解像度が低く、偽陽性、偽陰性が多い。放射線被爆。高額。

結論
以上のことから考えますと、絶対に受けたほうがいい癌検診はなさそうです。がんは細胞内の遺伝子が傷つくことにより、細胞が異常に増殖することで発生します。遺伝子を傷つけることとしては、ストレス、運動不足、偏った食事、喫煙、飲酒などがありますので、生活習慣の改善が一番の予防につながります。ただし、遺伝するがんが知られていますので、そのような場合は定期的な検診が必要です。

以上です。

参考
厚労省ウェブサイト
臨床と研究 2019;96:884-8.
Choosing Wisely (米国内科学会)
2020.06.05 19:37 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ

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