その22 「ワクチン有効性の意味」
新型コロナウイルスワクチンは素晴らしい効果をもっていると報道されています。


※接種は公費負担(無料)ですが、製品を選ぶことはできません。

「95%の有効性』という表現は、あたかも「100人にワクチンを打つと95人に効く」と受 け取られがちですが、違います。

下の表は、Pfizer の新型コロナウイルスワクチン(BNT162b2)の第三相試験結果(2020年12月)です。


ファイザーの発表によれば登録者は接種群、非接種群は約2万人ずつで、接種群は2万人中 8人(約0.03%)が、非接種群は2万人中162人(0.75%)が発症しています。つまり、非 接種群の発症率(0.75%)を基準とすると接種群の発症率(0.03%)は5%(95%少なかっ た)ということです。これを有効率95%と謳っているのです。

現在新型コロナウイルス感染症の発症率(PCR 陽性率)は、米国が3億2千万人中2600万人(8%)、日本は1億2600万人中39万人(0.3%、米国の26分の1)。約8割は無症状です ので、実際の発症率は更に低くなります。

治療法には治療必要数(NNT:number need to treat)という概念があります。「何人に

1人の割合で効果が認められるか」というものです。発症率を加味して計算すると、米国 ではNNT=149、日本ではNNT=3874となります。つまり、米国では149人に1人、日本 では3800人に1人しか効果を認めない治療法ということになります。さらに言えば米国で も100人に打って効果がある人は1人以下ということになります。

臨床研究で有効と言われる治療法はNNT5∼10までとのことですから、効果は非常に限定 的と言わざるを得ません。

例えば、感染対策する前のインフルエンザの発症率は、5人に1人ぐらいでしたが、仮に 100人に10人(発症率10%)としましょう。これが有効率90%のワクチンを打つと発症は100 人に1人(発症率1%)になります。NNT を計算すると、1/(0.1-0.01)=11.1となり、11人に1 人に恩恵があると判断されます。

アメリカ国立生物工学センターの発表によると、 インフルエンザワクチンのNNTは型が 合えば12から37ですが、平均40程度と言われています。また、生ワクチンである水痘ワク チン(生ワクチン)NNTは1.1∼5.5、麻しんNNT7と驚くほど効果的です。 アメリカ国立生物工学情報センター(NCBI)サイトより https://www.ncbi.nlm.nih.gov/ pmc/articles/PMC3994812/

一方、害必要数(NNH:number need to harm)といって、「どれだけの人に治療を行え

ば有害事象を認めるか」という指標もあります。新型コロナウイルスワクチンはNNHは 6.25ですので、6人に1人は何らかの副反応が起こることになります(インフルエンザワ クチンのNNHは125)。

ワクチンの効果持続期間 現在市販後調査(phase IV)の報告はなく詳細不明です。

まとめ
新型コロナウイルスワクチンの効果は、発症率の低い日本では、恩恵を得る人は3800人に 1人と非常に限定的である。副反応の頻度はインフルエンザワクチンより高い。下記の超 過死亡数を見ても、日本人は新型コロナ流行によって総死亡率が減っており、善玉ウイル スと言ってもよい。基礎疾患のある人、高齢者に限り接種することが望ましい。特に日本 では罹患率が低く、新型コロナに対する免疫をすでに持っている可能性が高いので、上記 以外の人は接種する必要性は低い。 むしろ、基礎疾患のある人は肺炎球菌のワクチンや日本脳炎の追加接種を行うべき。


上のグラフはニューヨークタイムズサイトよりコピーしたものです。各国の2019年の死亡 者数(水色)に2020年の死亡者数(赤線)を重ねています。赤線がオーバーシュートしている 国がほとんどですが、日本、韓国、ノルウェー、デンマークでは死者数の明らかな死者の 増加は認めません。これを見ても死亡数が激増した国々とむしろ減少している日本では、 ワクチンの位置付けが違ってくるのは当然です。

2021/02/12追記

ワクチンのNNT を計算するには、1人の人を1年観察(人年person*year )で発症率を計算しないといけない様です。つまり1人の人を1年観察して1人年と考えます。接種群(8/2214 人年 0.36%)、非接種群(162/2222 7.2%) NNT=1/ (0.072-0.0036)=14.6となりました。同様にして、日本におけるNNTは379となります。米国においてはある程度有効と考 えられますが、発症率の低い日本では、やはり有効性は低いと考えられます。

以上です。

Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine N Engl J Med 2020; 383:2603-2615
2021.02.08 19:42 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その21 うつ病を予防する生活習慣
前回「褒めよう。私たちを。」で我々の感染対策がいかに効果を発揮しているか、いくつかのデータを示しました。しかし、著しい寒波とPCR検査の拡大とともに感染者(大半は無症状)が増え、昨日には1都3県で2回目の緊急事態宣言が発出されました。

残念です。もっと褒めてくれてもいいのに。

そんな中で今回のテーマは「うつ病を予防する生活習慣」です。

うつ病は「やる気がしない」「億劫だ」「気分が落ち込む」という状態が続く病気です。どこまでが病気なのかという議論はありますが、今回は省きます。
うつ病は大きく2つに分類されます。一つは「内因性うつ」、もう一つは「反応性うつ」です。簡単に説明すると、前者は特に環境の変化がないのに上記の症状が続いている状態です。後者は環境の変化をきっかけにして上記の症状が続いくものを指します。前者は几帳面で真面目な人がなりやすく、後者は認知行動特性(考え方や生活習慣)が関係していると言われています(最近はこの他に「未熟型うつ」という、依存、回避を特徴とするものも注目されています。これは薬で悪化します)。

前者は抗うつ薬が効きやすいですが、後者は薬が効きにくく、認知行動療法(考え方や生活習慣を改める)が有効です。実際は内因性と反応性の両方を併せ持っていることが多く、治療は最低限の薬物療法と認知行動療法を組み合わせて行われます。

成人病を予防するために食事・運動療法が有効であるのと同様、うつ病を予防するためには、考え方や行動に気をつけることが大切です。

認知(考え方)のコツとしては、心のストライクゾーを広くすること。「こうしなければいけない」「これではダメ」と考えるのではなく「これでいいのだ」「まっいっか」と考えるようにしましょう。

行動習慣で大切なことは、疲れたら体を動かしてから休むということです。ただ休んでしまうと血の巡りが悪くなり、体内に疲労物質(乳酸)が溜まりやすくなります。軽くストレッチしてから休みましょう。また、やる気がしない時も体を動かすことで、脳からやる気のホルモン(アドレナリン、ドーパミンなど)が放出されます。

特に、朝目覚めてから布団を出るまでの行動が重要です。もう少しと思って二度寝するよりも、布団を蹴飛ばして体を動かすと脳がスッキリします。私は朝目覚めたら部屋を明るくして、布団の中で腹筋100回、背筋(水泳のバタ足)100回を習慣にしています。

1日のスタートが良ければ、その日の気分も違ってきます。
皆様もぜひ試してみてください。

参考文献:
未熟型うつ病と双極スペクトラム 阿部隆明著
疲れたら動け 小林弘幸著

以上です。
2021.01.08 19:40 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その20 「ほめよう。わたしたちを。」
新型コロナの第3波が押し寄せています。賑わいを見せていたGO toキャンペーンも制限 がかかることが報道されています。
そんな中、昨日電車の中吊り広告で、女性の笑顔が大写しになっている「ほめよう。わた したちを。」というコピーを見て、思わず目頭が熱くなってしまいました。
今回は多くのグラフを眺めていただきます。
3月30日の一斉登校中止、4月7日の緊急事態宣言後、私達はどれだけのことを我慢してき たでしょうか。グラフを眺めると私達の我慢の成果を確認することができます。 グラフは東京都感染症情報センター(https://survey.tokyo-eiken.go.jp/)が集計した定点報 告(都内に1万ある小児科、内科診療所のうち419箇所が毎週の症例数を報告)したもの です。赤い線が2020年の症例数を示します。

1.インフルエンザ感染者数


インフルエンザの減少に関しては新型コロナ流行による影響が考えられます。

2.インフルエンザ重傷者


インフルエンザの重傷者はピーク時は、都内のみで毎週50−100人ぐらい発生します。新型 コロナは12月2日時点で都内に53人いらっしゃいます。

3.感染性胃腸炎(お腹の風邪)


4. RSウイルス(子供の気管支肺炎)


5.咽頭結膜熱(プール熱)


6.水ぼうそう


7. 溶連菌(喉の細菌感染)


8.手足口病


どうでしょうか。私達の我慢が、これだけの病気を減らしたと考えられないでしょうか。

次のフラフは厚労省が11月20日に発表した人口動態速報です。https://www.mhlw.go.jp/ toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/s2020/dl/202009.pdf



青は2019年、赤は2020年の毎月の死亡数を表しています。1月から9月までの死亡者数を

昨年と比較すると、18,000人も減少しています。

ただ一方で残念なことに自殺者はやや増加傾向です。


一生懸命我慢している自分を褒めて、気持ちを上げましょう。



(digital platformより

以上です。

https://digitalpr.jp/r/43141)


2020.12.05 19:25 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その19 アンガーマネジメントとストレスコーピング
コロナ禍の生活で人々のストレスが高まっていると言われています。経済の停滞、雇用率の低下、人々が集う楽しみがことごとく禁止されており、ストレス発散ができなくなっています。

街中でもマスクの付け方を巡ってのイザコザやSNS上での誹謗中傷などが毎日のようにニュースになっています。実際の診療においても、リモートワークの些細な言葉の行き違いで会社に行けなくなるケースを経験します。

今回は、イライラした気持ちをリセットするアンガーマネジメントや日頃のストレスを軽減するストレスコーピングをご紹介します。

1.Anger management
ふつふつと湧いてきた怒りを鎮める方法として、

1)話す前に考える、深呼吸する
2)しばらく黙り、考えをまとめてから話し始める
3)体を動かす
4)短時間でも休憩をとる
5)ストレスフルな話題の中に一理はないか考える
6)ストレスの原因を作った相手を恨まない。許す気持ちを持つ
7)ユーモアある表現を心がける
8)怒りが込み上げてきた時に肩から腕の力を完全に抜く

上記のことは、あまり怒りが激しくなってしまうとできなくなりますので、日頃からストレスを溜めないことが大切になります。

2.Stress coping
よく「私はストレスなどありません」という方がいますが、ストレスがどのような形で現れるか理解することが重要です。

ストレスは次の5つの形に現れることを理解します。

1)気分の落ち込み(不安、緊張、焦燥)
2)身体の反応(血圧上昇、頭痛、腹痛、腰痛)
3)不健康な習慣(飲酒量、喫煙数の増加、過食)
4)仕事効率の低下(着手できない、段取りできない、ケアレスミス)
5)人間関係がうまく行っていない

特に女性では頭痛、過食が、男性では腹痛、飲酒、喫煙量の増加がストレスの現れであることが多いです。4)5)は性別問わずよく見られます。

日頃のストレスを溜めないようにするには、体の力を抜いて、良いイメージを浮かべ、ゆっくり息を吐いてリラックスします。

また、やるべきことをリストアップし時間を決めて計画的に行動する、食べすぎ飲みすぎを改める、悩んでいることを信頼できる人(医師でもよい)に相談する、などが有用です。

私は診察中、座禅の呼吸を実践しています。背筋を伸ばし、肩の力を抜いて、鼻からからゆっくり息を吐くようにします。息を吐くときにお腹を凹ますようにします。すると、体中の血液がお腹の部分に集まって、頭に血が上らなくなります。

心身の疲れが溜まりにくくなりますのでみなさんもぜひお試しください。

以上です。

Anger management: 10 tips to tame your temper(Mayoclinic)
Stress Management and Emotional Health(Cleveland Clinic)
2020.11.05 19:39 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その18 自然免疫(innate immunity)を鍛えましょう
日々の気温が20度を下回るようになり、すっかり秋めいてきました。今年も秋は短そうで、酷暑の夏から厳寒の冬へ向かおうとしています。

10月になりインフルエンザワクチン接種が始まりましたが、今年の冬は新型コロナウイルス感染症の影響で、単なる風邪では済まされない悩ましい時期に突入します。新型コロナウイルス治療薬アビガンは今月中にも認可されそうですが、ワクチンの認可は年内には難しそうです。

そこで今回のテーマは自然免疫(innate immunity)です。自然免疫とは我々が生まれながら備え持っている、外敵(細菌、ウイルス、寄生虫など)に対する非特異的な身体防御システムです。それに対して、特異的な防御システムを獲得免疫(acquired immunity)といい、これは麻疹(はしか)や水痘(水ぼうそう)など特定なウイルスや菌に対する「抗体」を指します。

また、インフルエンザウイルスやコロナウイルスは一本鎖RNAウイルスに分類されますが、非常に変異を起こしやすいので、獲得免疫(抗体)が産生されにくいと言われています。抗体を作っても相手のタンパク質がコロコロ変わって対応できないからです。そのような場合は自然免疫の段階で、つまり粘膜でマクロファージ、樹状細胞、ナチュラルキラー細胞などが活躍して殺菌します。

今年の冬はインフルエンザやコロナから体を守るため、自然免疫を大いに強化する必要があります。どうすればいいのでしょうか。一般的には食事、睡眠、飲酒・喫煙を控える、適度な運動などが推奨されます。

私は医師になって32年間、日曜以外診療を休んだことはありませんが、年に1~2回は風邪をひきます。それは決まって深酒をした翌日か寝不足が続いた時です。酔っ払って口を開けて寝ていると、喉の粘膜がカラカラに乾燥して、局所の免疫力が極端に低下します。

一方で、寝不足になると脳からコルチゾールというストレスホルモンが放出されて、白血球の働きが抑えられてしまうのです。ちなみに白血球が働きすぎても、関節リウマチや喘息、花粉症のように体に余計な炎症を起こすので困ります。このような時は、逆にコルチゾールのようなステロイドホルモンで白血球の働きを抑える治療が行われます。

今回は自然免疫を高めるため、ストレスホルモンであるコルチゾール(cortisol)を減らしましょうという話です。

コルチゾールは血管を収縮させ血の巡りが悪くなり、白血球の働きを抑えるため色々な病気にかかりやすくなってしまうのです。体内のコルチゾールを下げるには、

1)適度な睡眠・運動をこころがける。
2)野菜・キノコ類を多めにとる。
3)イライラしない、心にゆとりを持つ。感謝の気持ちを持つ。
4)リラクゼーション(ヨガ・瞑想)を行う。
5)楽しいことをする。笑う。
6)友達、家族との付き合いを大切にする。
7)植物や動物の世話をする。
8)自らの力不足を勉強して補う。悪い習慣(2度寝、長時間のPCゲーム)を正す。
9)信心する(神社やお寺、お墓やお仏壇にお参りをする)。
10)深酒しない(自戒)。飲酒を控える。

などの方法があります。1)から7)まではよく言われる事ですが、8)や9)はやってみるとストレス解消になりそうですね。

自然免疫を鍛えて今年の冬を元気に乗り越えましょう。

以上です。

下記サイトを参考に改変しました。
https://www.healthline.com/nutrition/ways-to-lower-cortisol#TOC_TITLE_HDR_2
2020.10.07 19:39 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ

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