その43 女性ホルモンによる体調管理
閉経前のホルモン周期 エストロゲン(E)とプロゲステロン(P)で調節されています。



月経開始後12日ごろEがピークを迎えると、卵巣から排卵が起こり、卵巣からPが放出され、EとPの両方で子宮内膜を肥厚させ、妊娠に備えます。妊娠が成立しないと月経開始28日頃に子宮内膜が剥がれ、出血がおこります。月経前半はEとPが減少するので体調不良をきたします(月経前症候群)。

妊娠と女性ホルモン


妊娠が成立すると左図のようにEとPがどんどん増えていき、出産とともにEとPは一気にゼロになります。EとPが枯渇するので、1週間ぐらいは強い疲労感や眠気を感じます(産後うつ)。ここから1年間は乳汁分泌ホルモンの影響でEとPは増えません。

Eの変化と体調不良
45歳から55歳を更年期とよび、EとPのバランスが特に乱れるようになり、様々な不調が現れます(症状は300種類以上)。あらゆる検査で異常がみられない症状は、更年期症状を疑ってみることも必要です。



ホルモン補充療法(HRT: Hormone Replacement Therapy)
狭義のHRTは更年期症状に対するEの補充を指しますが、広義には月経前症候群に対する低用量ピルを含みます。Eは女性にとって若さ、元気の源で、Eが欠乏する更年期症状としては、ホットフラッシュ、頭痛、関節痛、手足の冷え、関節痛、筋肉量や骨量の低下、皮膚や粘膜の乾燥、気分の落ち込みなどが、Eの放出が不安定になる月経関連症状としては、頭痛、気分の落ち込み、情緒不安定、肌荒れ、睡眠障害、むくみなどの症状が現れます。

※閉経の判断は血液検査で、FSH(卵胞刺激ホルモン)>40mIU/mL、E2(卵胞ホルモン)<20g/mL

月経関連症(月経前症候群 PMS: Premenstrual syndrome)のホルモン療法

低用量ピルを使用します。保険適応のものと自費のものがありますが、いずれも月2000円前後です。低用量ピルには、最小限のEとPが適量含まれています。Eの副作用は、吐き気、むくみ、胸の張り、血栓、高血圧などですが、Eの量が極限まで減量されているので、ほとんど副作用は現れません。その代わり、規則的に服用しないと天然ホルモンの影響を受け、途中で出血することもありますので、服薬時間は毎日アラームをセットして規則正しく服用が必要です。合成のEとPを3週間服用して、1週間休むことで定期的に月経をこさせます。ピル服用中は天然のEとPは放出されないため排卵は起こりませんので、避妊のために服用する人もいます。エストロゲン依存性悪性腫瘍(乳がん、子宮がん)、血栓症、片頭痛、高血圧、糖尿病、喫煙者の方は服用できません。

更年期症候群のホルモン補充療法

更年期のホルモン補充療法は月経関連症に比べてさらに少量のE(4分の1)でコントロール可能です。子宮切除後の方はEのみ(エストラーナテープ:保険適応で月300円)、子宮がある方は子宮内膜の増殖を調節するためE+ P(メノエイドコンビ:保険適応で月1000円)をお勧めします。エストロゲン依存性悪性腫瘍と血栓症(下肢静脈血栓など)がある方ははできません。

子宮筋腫と子宮内膜症のホルモン補充療法

低用量ピルやP単独剤(ジェノゲスト)で天然のエストロゲンを止めます(詳細は割愛します)。

原因不明の症状にお悩みの女性は、女性ホルモンを適切に補充することで症状が改善する可能性がありますので、どうしてもお困りの症状がある方は内科や婦人科でご相談ください。

以上です。
2022.11.10 15:44 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その42 概日リズム circadian rhythm を整えましょう
秋分も過ぎ、これからは12月下旬の冬至までどんどん夜が長くなっていくます。いつも起きる時間になっても外は暗く、朝寝坊がちになってしまいますね。こんな時こそ毎日の生活リズムを乱さないようにすることが大切です。

今回のテーマは「概日リズム circadian rhythm を整えましょう」です。

概日リズムとは、生命に自然に備わっている体内時計のことです。20世紀の終わりにこの時計が哺乳類には皆備わっていて、脳内の視神経が交わったところのすぐ上(視交叉上核(SCN))にあることがわかりました。



SCNは各種ホルモンを分泌して人間の生活リズムをコントロールしています。1990年にはショウジョウバエにおいて、3種類の遺伝子が細胞内で24時間周期で増減を繰り返しているという研究が発表され、2017年にノーベル賞が授与されました。

概日リズムは環境に合わせて微妙に調節されますが、その調節に最も重要なものは光情報であることはよく知られています。生活のリズムを整えるためには「朝の光を浴びましょう」などといいますが、3種類のいずれか一つの遺伝子に異常がある場合は、光刺激により概日リズムが調節されにくいことがわかっています。

ヒトの概日リズムは約25時間といわれていて、放っておくとどんどん夜ふかし朝寝坊になってしまいます。概日リズム睡眠・覚醒障害(CRSWD)といって、精神科疾患として分類されています。治療は、光線療法、メラトニンが有名ですが、上述のように遺伝子に障害がある場合、その調節は一朝一夕にはいきません。

お勧めの概日リズム調節方法は、寝る前1-2時間はブルーライト(テレビ、携帯)を避ける、朝目覚めたら血圧を上げる目的で自転車漕ぎや脚を開いたり閉じたりの体操する、水を一杯飲んで胃腸を動かすなどです。どうしてもリズムが整わない時は、精神科でメラトニン作動薬を処方してもらうのもよいかもしれません。

急に寒くなりましたので、夜はゆっくり休んで免疫力を高めましょう。

以上です。

Hardin, P. E.; Hall, J. C.; Rosbash, M. (1990). "Feedback of the Drosophila period gene producton circadian cycling of its messenger RNA levels". Nature. 343 (6258): 536540.Bibcode:1990Natur.343..536H. doi:10.1038
2022.10.07 18:33 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その41 EMDR (眼球運動によるストレス軽減)
あなたは1日のうちで「考えること」「感じること」のどちらが多いでしょうか。考える時は「言葉」が必要であり、感じるときは「言葉」より「こころ」が働きます。

相手の顔が見えないコミュニケーションに溢れている現代では、圧倒的に言葉の処理に追われて、常に何かを考えている状態かもしれません。一方で、素晴らしい風景を眺めているときには、「わーっ」と感動して言葉にならないことがあります。

以前の健康一口メモで、デフォルトブレインネットワーク(DBN)という脳のアイドリング状態について取り上げたのを覚えているでしょうか。人間は過度に集中しすぎると、脳がオーバーヒートを起こし、高次脳機能が一時的に低下してしまうのです。高次脳機能とは、注意、記憶、学習、計画遂行(てきぱきと仕事をこなすこと)、感情などを指します。

DBNは、車のエンジンで言えばアイドリングのような状態で、アクセルを踏んでいない時でも(集中していない時でも)静かに働いている、潜在的な脳の機能です。

脳内に保存されている情報をスキャンする状態であるため、思わぬアイデアが閃いたり、環境変化に対応しやすくなる、考えが柔軟になることがわかっています。集中が長時間にわたると、DBNが働かず、他人との柔軟な交流が図れなくなります。集中しない時間(ぼんやり時間)が大切なのです。

ただ仕事中にぼんやりすることはできません。それでは手っ取り早くDBN の状態に導く方法はないのでしょうか。

前置きが長くなりましたが、今日のテーマはEMDR (Eye Movement Desensitization and Reprocessing : 眼球運動による脱感作と再処理法)です。名前は長ったらしくて分かりにくいと思いますが、方法は至って単純です。目を閉じて、眼球を左右に規則正しく動かすだけです。数十秒も続ければ十分です(正式なセラピーは1時間以上かかりますが)。

不安や恐怖などの不快な感情は、最終的に前頭葉(前頭前野)という脳の表面で感知されますが、眼球を動かすことにより、動眼神経中枢である中脳という脳の深部が活性化されます。それにより、脳の表面の血流が低下し、不快な感情が消し去られてしまうのです。

EMDRは戦争帰還兵やレイプ被害者などに生じるパニック発作の治療に用いられています。本来はメトロノームや治療者の声に合わせたり体の一部を自らタップしながら行います。このようにすることで、脳内のパニックに至る神経ネットワークをリセットさせると考えられています。

いずれにせよ「疲れたな」「いろいろ考えて眠れないな」という時に、数十秒でも良いのでやってみると結構頭がすっきりします。私も先日歯科治療中に、歯をウィーン、ガリガリと削られて体がこわばっていた時に目を閉じて左右に動かしていましたら、これまでの恐怖心が半分ぐらいに緩和されました。

皆さんも是非電車の中で、布団の中で、試してみてください。

以上です。
2022.09.20 19:50 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その40 頭痛の原因と対処法
毎日うだるようなあつさで疲れが抜けませんね。この時期に頭痛持ちの方は症状が悪化することが多いです。今日のテーマは頭痛の原因と対処法です。

1. 週末の頭痛
月曜日から金曜日まで10時間労働で、体調は万全なのに、土曜日に横になって起きると、頭がガンガンしている。なぜでしょう?

それは、1週間の緊張がほぐれると、ストレスホルモンの濃度が下がり、神経伝達物質(脳の化学伝達物質)が急激に放出されるからです。これが血管を収縮させ、拡張させるインパルスを送るので、頭痛が起こるのです。

対処法 週末に寝だめをしないようにしましょう。一度に8時間以上寝ると、頭痛を引き起こす可能性があります。週末にすべてを詰め込むのではなく、平日にヨガのクラスなどリラックスできる時間を取り入れましょう。

2. 怒りを溜め込む
怒ると首の後ろや頭皮の筋肉が緊張して、頭のまわりが帯状に締め付けられるような感覚になります。これは、緊張型頭痛のサインです。

対処法 怒りを感じ始めたら、深くゆっくりと呼吸します。鼻から息を吸い、口から吐き出すと、頭と首の筋肉がリラックスします。

3. 姿勢の悪さ
姿勢が悪いと、背中の上部、首、肩が緊張し、頭痛の原因になります。一般的には、頭蓋骨の付け根がズキズキと痛み、時には顔、特に額に閃くこともあります。

治し方 長時間、同じ姿勢で座ったり立ったりしないようにしましょう。背筋を伸ばして座り、腰を支えてください。受話器を頭と肩の間に挟むと、筋肉が緊張して頭痛を引き起こすことがあるので、長時間電話をする場合は、専用のヘッドセットの使用を検討してください。

4. 香水
家事で頭痛がすると思っているなら、それは正しいかもしれません。香水や芳香剤などの家庭用洗剤には、頭痛を引き起こす可能性のある化学物質が含まれています。

どうすればいいのか。特定の匂いで頭痛が起こる人は、香水や香りの強い石鹸、シャンプー、コンディショナーを避けましょう。芳香剤や家庭用洗剤は無香料のものを使い、家ではできるだけドアや窓を開けておく。同僚の香水が気になる場合は、職場のデスクに扇風機を置くとよいでしょう。

5. 天候不順(熱中症含む)
頭痛になりやすい人は、灰色の空、高い湿度、気温の上昇、嵐などが、頭の痛みをもたらす可能性があります。

天候の変化による気圧の変化は、脳内の化学的・電気的な変化を引き起こすと考えられています。これが神経を刺激し、頭痛につながるのです。

どうすれば治るのか 天気を変えるためにできることはあまりありません。しかし、天気予報を見ることで、頭痛が起こりそうな時期を予測し、鎮痛剤を準備しておくことができます。

6. 歯ぎしり
夜中に歯ぎしりをすると(医学的名称はブラキシズム)、顎の筋肉が収縮して鈍い頭痛が起こります。

対処法 歯医者で、睡眠中に歯を保護するマウスガードを装着してもらうことができます。価格は5000円ぐらいです。筋肉を緩める眠り薬も有効です。

7. 明るい光
明るい光やまぶしい光、特にチカチカする光は、片頭痛を誘発する可能性があります。これは、明るい光やチカチカする光が、脳内の特定の化学物質のレベルを上げ、片頭痛中枢を活性化させるからです。

対処法 サングラスは光の強度を下げるのに効果的で、室内でも屋外でも使用できます。また、偏光レンズはまぶしさを軽減するのに役立ちます。

仕事場では、コンピュータのモニターを調整するか、グレアスクリーンを装着してください。特定の照明を消したり、移動させたりできるかもしれません。それができない場合は、オフィスで座る場所を変えてみましょう。蛍光灯はちらつきやすいので、可能であれば白熱灯色に変えるのも有効です。

8. 食べ物が引き金になる
赤ワイン、チーズやチョコレートには、片頭痛を引き起こす可能性のある化学物質(チラミン)が含まれています。チラミンは血管収縮作用がありますが、その作用が切れた後、血管が拡張して頭痛を誘発します。

対処法 片頭痛の引き金となる食品を日記に記録し、その食品が頭痛の原因であることが分かったら、数ヶ月間その食品を食べないようにして、頭痛が少なくなるかどうかを確認します。

9. 重量挙げ
ジムなどでで重いバーベルを上げた後、激しい頭痛が出現することがあります。血圧が急激に上がり、脳内の圧が高まることが原因です。頭痛が数日続くこともあります。脳圧亢進によって

10. アイスクリーム
アイスクリームをかじるとき、おでこに鋭い痛みが走ることはありませんか?アイスクリーム頭痛は、冷たいものが口の中や喉の奥に移動することによって起こります。急激に収縮した血管が広がる時に痛みを感じます。

まとめ

頭痛は、頚部や頭蓋骨周囲の筋肉の炎症(酸素不足)または脳血管収縮や拡張が根本原因となります。筋肉の緊張はカルシウムイオンによって高まりますが、カルシウムと同じ2価の陽イオンであるマグネシウムを摂取することで、頭痛の頻度を激減させる可能性があります。酸化マグネシウムという緩下剤で市販もされています(ビオフェルミン酸化マグネシウム約1000円)。寝る前に一粒飲むだけで十分です。

そのほか高価な頭痛薬が何種類も上梓されていますが、頭痛でお困りの方はまずマグネシウムを是非試してください。

以上です。
2022.08.05 19:48 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ
その39 摂取カロリーを意識しましょう
1952年の観測史上最も早い梅雨明けとなり、酷暑の毎日です。

先日、内科学会の生涯教育講座を受講して、糖尿病に関する驚くべきデータが提示されました。


糖尿病が疑われるにも関わらず、40代男性は50%しか治療できていないというものです。 理由としては、①治療の必要性を感じない(まだ軽いので)、②通院の時間がない、③経済的に余裕 がない、などが理由とのことでした。

糖尿病の治療は、未治療の時間が長ければ長いほど、動脈硬化、腎症、網膜症、神経症などの合 併症が増えることが知られています。特にコロナ禍で運動量が減っているにも関わらず、摂取カロ リーが変わらないと、血液中の糖分量は増えてきます。

一般に健康な人は、どんなに食事をたくさん食べても、食後2時間の血糖値は140mg/dl以上になり ません。血糖値が高くなると、膵臓からインスリンというホルモンが血液中に分泌され、糖分を 細胞内に取り込んでグリコーゲンや脂肪に変えてエネルギーを蓄えます。

ところがカロリーの取り過ぎや運動不足で高血糖がの状態が恒常化すると、インスリンが出続け て、糖分が細胞内に取り込まれにくい状態(インスリン抵抗性)となります。インスリンが出っ放し になると膵臓は疲れてしまい、ついにはインスリンが出せなくなってくるのです。これが糖尿病の 病態です。

2回血液検査を行い、以下のいずれかを2回とも満たした時に糖尿病と診断します。 ①空腹時血糖126 mg/dl以上 ②食後2時間血糖値200 mg/dl以上 ③ヘモグロビンA1c 6.5 %以上

1回しか満たさない場合は、耐糖能障害と呼ばれます。治療の基本は食事療法と運動療法です。① から③の一つでも当てはまる人は、糖尿病と診断される前に食事運動療法を始める必要がありま す。

皆さんは自分の1日に必要カロリーはどれくらいだと思いますか? デスクワークの30∼50才男性は2700kcal、同じく女性は2050kcalです。 例として2200±200kcal の食事例を示します。



食品カロリーの例として、ビール350ml 150 kcal 、ご飯一杯(軽め)200 kcal、キャラメルマキアート (トール)200 kcal 、コーラ350ml 130 kcal、一方カロリー消費は、男性でウォーキング(30分)90 kcal、テニス(30分)160 kcal、サッカー(45分)245 kcalです。因みに1日横になっていたとしても男性 で1500 kcal、女性で1200 kcalを消費します。これは基礎代謝といって筋肉量が多いほど高くなりま す。

摂取カロリーが消費カロリーを上回ると当然体内に脂肪として蓄積されます。男性はりんご型肥 満といって内臓に脂肪が貯まりお腹が出てくるのに対して、女性は洋梨型と表現されお尻と太もも の皮下に脂肪がつきます。

私はもともといくら食べても太らない体質でしたが、50歳(9年前)の正月に1週間の休みで5kg太 り、ズボンのウエストが閉まらなくなり焦りました。それ以来、油断するとすぐに体重が増える ようになり、毎日体重計と相談しながら食べる量を調節しています。

厳しい暑さで体が重く感じる時は時は、1食抜いてみると体がスッキリしますので試してみてくだ さい。

以上です。
2022.07.02 20:46 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ

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