その74 熱中症に有効な漢方薬
ニュースでご覧になった方も多いと思いますが、令和7年4月20日に労働安全衛生規則の変更により、本年6月から、事業主に「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定」が義務づけられました。
熱中症とは「暑熱環境における身体適応障害によって発生する状態の総称」と定義*されています。これまで「熱失神、熱痙攣、熱疲労、熱射病」と分類されておりましたが、2024年より重症度は4つ**に分類されています。
I度は、めまい、吐き気、大量の発汗、筋けいれんで、意識障害を認めないもの。通常は現場で対応可能。
II度は、頭痛、嘔吐、虚脱感、判断力の低下を認めるもの。医療機関での診察が必要です。
III度は、体温が腋窩で38度以上で、意識障害、肝・腎機能障害、血液凝固障害のいずれかを認めた場合。入院治療が必要です。
IV 度では、表面温度40度以上または昏睡状態(GCS<8)をVI度と分類し、早急に積極的な冷却(activecooling)を行い、集中治療が必要となります。死亡率は30%以上となります。
冷所で安静を保つ受動冷却(passive cooling)と氷嚢、ジェルパッド、輸液などを使用して冷却する能動冷却(active cooling)があります。重症度IIからIVではactive coolingが必要になります。
熱中症が命に関わるのは、
①発汗による電解質(ナトリウム、
カリウム、カルシウム)の喪失、
②脱水による血液量減少による酸
素不足と血液の酸性化による神経
伝達異常、
③高体温による筋肉内のカルシウ
ム濃度の上昇、これらの結果、全
身の筋肉が痙攣し脱水や筋肉組織
(ミオグロブリン)の溶解が腎不全を
起こし、最終的には心臓が痙攣し
て死に至ります。
熱中症死亡者は2010年頃より急激に増えており、特に65歳以上の高齢者の割合が8割前後で推移しています。
今日は、熱中症に有効な漢方薬をご紹介します。こむら返りの特効薬と言われている「芍薬甘草湯」です。その機序は明らかになっておりませんが、芍薬は筋肉の緊張を緩め、甘草は肝機能を回復させます。実際に熱中症で筋痙攣を起こしている患者に芍薬甘草湯を投与して、筋痙攣が治った症例報告があります***。
激しい運動や長距離の歩行、そして暑い季節にはこむら返りが起こりやすくなります。夏には運動の前後に芍薬甘草湯を一袋ずつ服用することをお勧めいたします。
以上です。
*2008年日本医学会
**2024年度熱冷却方法はガイドライン(救急医学会)https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf
***熱中症に付随した有痛性筋痙攣に対する芍薬甘草湯の治療経験 https://doi.org/10.3937/kampomed.64.177
熱中症とは「暑熱環境における身体適応障害によって発生する状態の総称」と定義*されています。これまで「熱失神、熱痙攣、熱疲労、熱射病」と分類されておりましたが、2024年より重症度は4つ**に分類されています。
I度は、めまい、吐き気、大量の発汗、筋けいれんで、意識障害を認めないもの。通常は現場で対応可能。
II度は、頭痛、嘔吐、虚脱感、判断力の低下を認めるもの。医療機関での診察が必要です。
III度は、体温が腋窩で38度以上で、意識障害、肝・腎機能障害、血液凝固障害のいずれかを認めた場合。入院治療が必要です。
IV 度では、表面温度40度以上または昏睡状態(GCS<8)をVI度と分類し、早急に積極的な冷却(activecooling)を行い、集中治療が必要となります。死亡率は30%以上となります。
冷所で安静を保つ受動冷却(passive cooling)と氷嚢、ジェルパッド、輸液などを使用して冷却する能動冷却(active cooling)があります。重症度IIからIVではactive coolingが必要になります。
熱中症が命に関わるのは、
①発汗による電解質(ナトリウム、
カリウム、カルシウム)の喪失、
②脱水による血液量減少による酸
素不足と血液の酸性化による神経
伝達異常、
③高体温による筋肉内のカルシウ
ム濃度の上昇、これらの結果、全
身の筋肉が痙攣し脱水や筋肉組織
(ミオグロブリン)の溶解が腎不全を
起こし、最終的には心臓が痙攣し
て死に至ります。
熱中症死亡者は2010年頃より急激に増えており、特に65歳以上の高齢者の割合が8割前後で推移しています。
今日は、熱中症に有効な漢方薬をご紹介します。こむら返りの特効薬と言われている「芍薬甘草湯」です。その機序は明らかになっておりませんが、芍薬は筋肉の緊張を緩め、甘草は肝機能を回復させます。実際に熱中症で筋痙攣を起こしている患者に芍薬甘草湯を投与して、筋痙攣が治った症例報告があります***。
激しい運動や長距離の歩行、そして暑い季節にはこむら返りが起こりやすくなります。夏には運動の前後に芍薬甘草湯を一袋ずつ服用することをお勧めいたします。
以上です。
*2008年日本医学会
**2024年度熱冷却方法はガイドライン(救急医学会)https://www.jaam.jp/info/2024/files/20240725_2024.pdf
***熱中症に付随した有痛性筋痙攣に対する芍薬甘草湯の治療経験 https://doi.org/10.3937/kampomed.64.177
その73 気分を無視して行動する (Let It Go)
精神科医療において最も頻度の高い疾患が不安症です。不安症の中には、全般性不安症(常に悪いこと考えてしまう)、パニック症(特に理由がないのに不安になる)、社交不安症(対人関係の過度な緊張感)、強迫症(強いこだわりがある)があります。「完璧でなければならない」「汚れてはいけない」といった非合理的な信念や自己規律が強く働き、日常生活に支障きたします。強迫症の患者は、意味のないと分かっていても「考えを抑え込もう」「行動をコントロールしよう」とするほど、症状(強迫観念や強迫行為)が悪化する傾向があります。
特に日本人はいくつかの文化的・社会的背景が影響して、不安症になりやすいといわれています。
① 高い完璧主義傾向 日本は「失敗を避ける文化」や「きちんとしなければならない」という社会規範が強く、几帳面・潔癖・完璧主義的傾向が不安症状を誘発しやすい。
② 恥文化・他者の視線の意識 「周囲に迷惑をかけてはいけない」「人からどう見られるかを気にする」文化は、対人不安や確認強迫の土壌となる。
③ 心理教育の不足「不安を感じるのは弱いこと」という誤解や、精神疾患への偏見が根強く、早期介入や認知行動療法的な教育が進みにくい。
④ 集団主義と「型にはまる」圧力 多様な考えや行動が認められにくい環境では、強迫的なルールや儀式を自分に課しやすくなる。
また下図のような認知(考え方)の歪みによって、自分が許容できることが少なく(ストライクゾーンが狭く)なり、ストレスを感じることが多くなります。このような人は対人関係を築きにくく、疲れやすい体質になってしまいます。

1990年代に提唱されたACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)*というセラピーがあります。ACTは「不安や強迫観念を消そうとする努力をやめ、それらを受け入れ、自分の価値に沿った行動に集中する」というもので
す。例えば「手を洗わないと不安になる」→ ACTでは「その不安を感じてもよい」と受け入れ、行動は価値に従う(例:家族と過ごす)。「考えを消したい」→ 「その考えはそのままでいていい」として手放す(Let It Go)。
マインドフルネス**は「今この瞬間に注意を向け、評価せずに観察する」技法です。強迫観念(が浮かんでも、それに反応せず、「今ここ」に注意を集中します。例えば、手を洗いたい衝動があっても、呼吸や身体感覚に意識を集中するのです。ある患者さんは「ゆっくり呼吸をして、空気が鼻の穴を通る感覚に意識を集中すると不安がなくなる」と話されました。
森田療法***は、日本で生まれた独自の精神療法で、森田正馬(もりた まさたけ)博士によって1919年に体系化されました。不安神経症(現在でいう強迫性症やパニック症など)を対象とした治療法で、不安や症状を排除せずに「あるがまま」に受け入れ、自然な生活行動に没頭することを治療の柱としています。

例えば「ドアを閉めたか」「ガスを止めたか」などの確認を1日数十回行う方がいて、確認しないと不安が高まり、出勤や外出が困難になっている場合を考えてみます。初期には、確認したくなる気持ちを「自然な不安」として捉えるよう指導します。中期には、確認衝動を感じても「確認せずに行動を続ける」課題に取り組みます。後期になると、仕事や家庭生活に意識を向け「確認に時間を使うことの無意味さ」に自ら気づくのです。現在国内には、不安症に適応のある薬剤は30種類以上ありますが、薬物療法は不安を軽減させる補助的な役割を持っていますが、治療の根本は「不安を無視して行動すること」です。すぐに治す事は困難ですが、
自然に治ることがあります。
治療する側の医師が不安症傾向の場合は、何とか治そうとする余りにあれこれと薬を使い、どれも効かないので医師も患者も疲弊してしまいます。患者は「もう通院しても意味がないのでは」と考えるたり、医師も「もう治せない」と匙を投げたくなったりします。ここでも「早く治りたい」や「早く治そう」と強く思いすぎると、エネルギーの無駄な消費につながりますので、常にリラックスした関係を継続することが大切です。
以前に「継続は自己肯定である」というコラムを書きましたが、この場合の自己肯定は「継続は相手への敬意である」と言い換えられると思います。私は、通院されている患者さんに対して、①敬意(こんなに辛いのに長時間待って、なかなか治らないのに診察を受けて、毎月来てお金を払ってくれる)、②責任(社会的援助を紹介したり、最新の治療法を検索し続ける)、③祈り(きっと治ります、早く治ってもらいたい)を信条にして診療しています。30年近く診療を続けている方もいます。
このように「答えのない状態に耐える力(negative capability)****」は、困難な問題に直面した際に、焦らず、その状態を受け入れる力を指しています。現代社会は処理すべき情報量が大きく、VUCA(変動的、不確実、複雑、曖昧)の時代といわれており、この能力が重要視されています。不安な気分になりやすい人は、認知の歪みがないか自己分析し、気分を無視して行動すると、快く生活ができるはずです。
以上です。
* Acceptance and Commitment Therapy: An Experiential Approach to Behavior Change(1999
年) アメリカの心理学者スティーヴン・C・ヘイズ(Steven C. Hayes)博士
** Kabat-Zinn, J. (1982). An outpatient program in behavioral medicine for chronic pain patients
based on the practice of mindfulness meditation: Theoretical considerations and preliminary
results.General Hospital Psychiatry, 4(1), 33‒47.
DOI: 10.1016/0163-8343(82)90026-3
*** 「神経質ノ本態及療法」1919年(大正8年) 『精神神経学雑誌』第14巻 第1号 精神科医 森田正馬(も
りた まさたけ) 1874年(明治7年)~1938年(昭和13年)
****John Keatsʼs Letter to George and Tom Keats, December 21, 1817
特に日本人はいくつかの文化的・社会的背景が影響して、不安症になりやすいといわれています。
① 高い完璧主義傾向 日本は「失敗を避ける文化」や「きちんとしなければならない」という社会規範が強く、几帳面・潔癖・完璧主義的傾向が不安症状を誘発しやすい。
② 恥文化・他者の視線の意識 「周囲に迷惑をかけてはいけない」「人からどう見られるかを気にする」文化は、対人不安や確認強迫の土壌となる。
③ 心理教育の不足「不安を感じるのは弱いこと」という誤解や、精神疾患への偏見が根強く、早期介入や認知行動療法的な教育が進みにくい。
④ 集団主義と「型にはまる」圧力 多様な考えや行動が認められにくい環境では、強迫的なルールや儀式を自分に課しやすくなる。
また下図のような認知(考え方)の歪みによって、自分が許容できることが少なく(ストライクゾーンが狭く)なり、ストレスを感じることが多くなります。このような人は対人関係を築きにくく、疲れやすい体質になってしまいます。

1990年代に提唱されたACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)*というセラピーがあります。ACTは「不安や強迫観念を消そうとする努力をやめ、それらを受け入れ、自分の価値に沿った行動に集中する」というもので
す。例えば「手を洗わないと不安になる」→ ACTでは「その不安を感じてもよい」と受け入れ、行動は価値に従う(例:家族と過ごす)。「考えを消したい」→ 「その考えはそのままでいていい」として手放す(Let It Go)。
マインドフルネス**は「今この瞬間に注意を向け、評価せずに観察する」技法です。強迫観念(が浮かんでも、それに反応せず、「今ここ」に注意を集中します。例えば、手を洗いたい衝動があっても、呼吸や身体感覚に意識を集中するのです。ある患者さんは「ゆっくり呼吸をして、空気が鼻の穴を通る感覚に意識を集中すると不安がなくなる」と話されました。
森田療法***は、日本で生まれた独自の精神療法で、森田正馬(もりた まさたけ)博士によって1919年に体系化されました。不安神経症(現在でいう強迫性症やパニック症など)を対象とした治療法で、不安や症状を排除せずに「あるがまま」に受け入れ、自然な生活行動に没頭することを治療の柱としています。

例えば「ドアを閉めたか」「ガスを止めたか」などの確認を1日数十回行う方がいて、確認しないと不安が高まり、出勤や外出が困難になっている場合を考えてみます。初期には、確認したくなる気持ちを「自然な不安」として捉えるよう指導します。中期には、確認衝動を感じても「確認せずに行動を続ける」課題に取り組みます。後期になると、仕事や家庭生活に意識を向け「確認に時間を使うことの無意味さ」に自ら気づくのです。現在国内には、不安症に適応のある薬剤は30種類以上ありますが、薬物療法は不安を軽減させる補助的な役割を持っていますが、治療の根本は「不安を無視して行動すること」です。すぐに治す事は困難ですが、
自然に治ることがあります。
治療する側の医師が不安症傾向の場合は、何とか治そうとする余りにあれこれと薬を使い、どれも効かないので医師も患者も疲弊してしまいます。患者は「もう通院しても意味がないのでは」と考えるたり、医師も「もう治せない」と匙を投げたくなったりします。ここでも「早く治りたい」や「早く治そう」と強く思いすぎると、エネルギーの無駄な消費につながりますので、常にリラックスした関係を継続することが大切です。
以前に「継続は自己肯定である」というコラムを書きましたが、この場合の自己肯定は「継続は相手への敬意である」と言い換えられると思います。私は、通院されている患者さんに対して、①敬意(こんなに辛いのに長時間待って、なかなか治らないのに診察を受けて、毎月来てお金を払ってくれる)、②責任(社会的援助を紹介したり、最新の治療法を検索し続ける)、③祈り(きっと治ります、早く治ってもらいたい)を信条にして診療しています。30年近く診療を続けている方もいます。
このように「答えのない状態に耐える力(negative capability)****」は、困難な問題に直面した際に、焦らず、その状態を受け入れる力を指しています。現代社会は処理すべき情報量が大きく、VUCA(変動的、不確実、複雑、曖昧)の時代といわれており、この能力が重要視されています。不安な気分になりやすい人は、認知の歪みがないか自己分析し、気分を無視して行動すると、快く生活ができるはずです。
以上です。
* Acceptance and Commitment Therapy: An Experiential Approach to Behavior Change(1999
年) アメリカの心理学者スティーヴン・C・ヘイズ(Steven C. Hayes)博士
** Kabat-Zinn, J. (1982). An outpatient program in behavioral medicine for chronic pain patients
based on the practice of mindfulness meditation: Theoretical considerations and preliminary
results.General Hospital Psychiatry, 4(1), 33‒47.
DOI: 10.1016/0163-8343(82)90026-3
*** 「神経質ノ本態及療法」1919年(大正8年) 『精神神経学雑誌』第14巻 第1号 精神科医 森田正馬(も
りた まさたけ) 1874年(明治7年)~1938年(昭和13年)
****John Keatsʼs Letter to George and Tom Keats, December 21, 1817
その72 魂(spirituality)を磨いて健やかに
NHKの連続テレビ小説「あんぱん」が先週から始まりました。アンパンマン作者のやなせたかしをモデルとしたドラマです。
子供時代のたかしのが幼馴染のぶちゃん(後の妻)の父親が出張先で亡くなり、悲しみに暮れています。たかしは居候している叔父(医師)に問いかけます。(たかし)どうしたらのぶちゃんに元気になってもらえるのかな。僕にできることはないのかな。
(伯父、竹野内豊)そればっかりは、医者にも治せん。時と言う薬しかない。それが生きちゅうことではないかい。生きちゅうき、悲しいがや。生きちゅうき、苦しいがや。生きちゅうき、いつか元気になって、きっと笑える日が来るがや(僕らはみんな生きている、詩 やなせたかし)。

たかしは、駅で父親を探すのぶちゃんに、駅に迎えにきたのぶちゃんと父親の絵を渡します。のぶちゃんは絵を抱きしめます。
人間の苦痛(total pain)は、①身体的苦痛(physical pain)、②精神的苦痛(mental pain )、③社会的苦痛(social pain)、④霊的苦痛(spiritual pain)に分類されます。①と②は鎮痛薬や抗不安薬などで対処か可能ですが、③に関しては環境調整が必要であり、④に関してはスピリチュアルケアが必要です。

「魂(spirituality)」は、自然界に親しみ、感じ、そこにある人智を超えた力に畏敬の念を持つことで育まれます。スピリチュアルケアでは「すべての病は魂のエネルギーが抑圧された結果である」と考え、魂のエネルギーを高めることを目的とします。WHO の定義によれば「スピリチュアリティは宗教と同義ではない。それは、人生に意味を見出すことや、他者・宇宙とのつながりを見つけることに関係している」とされています。
では、魂のエネルギー(spiritual well-being )を高めるにはどうしたらいいでしょうか。
27歳で京セラを創業し、78歳で日本航空再建に取り組んだ稲盛和夫氏(1932-2022)の行動義をご紹介したいと思います。
1 誰にも負けない努力をする
2 謙虚にして驕らず
3 反省のある毎日を送る
4 生きていることに感謝する→自然の摂理によって生かされている
5 善行、利他行を積む→陰徳を重ねる。思いやりの心を持つ
6 感性的な悩みをしない→くよくよ悩まず新しい行動に移る
2009年10月15日に行われた鹿児島大学工学部稲盛学生賞・授賞式での特別講義 「活きる力」より稲盛和夫氏は「人生と経営」の中で「経営には権謀術数(戦略・戦術)は全く必要ない、今日一日を一生懸命に生きさえすれば、未来は開けてくる」と述べています。「一生懸命苦労して努力してきた結果、魂が磨かれて人間性が向上していきます」と続きます。
「一生懸命に『誰にも負けない努力をする』と同時に『反省する』ということを毎日繰り返していけば、魂は純化され、浄化され、美しい魂へ、また善き魂へ変わっていくと私は信じています」と締めくくっています。
魂のエネルギーが高い人は、うつ病や不安が少ない、人生に満足している、人に優しくでる、病気の回復が早くなる ということがわかっています。
現代社会は「心の時代(Mind from Matter)」と言われています。心とは単なる精神を意味するだけでなく生命の根本にある魂と考えて、それを高める視点が大切になります。
アンパンマンは、お腹をすかせた人に自分の顔の一部をちぎって与える、究極の利他精神を持ったヒーロです。この素晴らしい絵本を読んで育った40代以下の人々が、これからの日本を支えてくれると思うと心がほっこりします。
以上です。
参考文献
『生き方―人間として一番大切なこと』(稲盛和夫、サンマーク出版 2004)
Handbook of Religion and Health 2012
子供時代のたかしのが幼馴染のぶちゃん(後の妻)の父親が出張先で亡くなり、悲しみに暮れています。たかしは居候している叔父(医師)に問いかけます。(たかし)どうしたらのぶちゃんに元気になってもらえるのかな。僕にできることはないのかな。
(伯父、竹野内豊)そればっかりは、医者にも治せん。時と言う薬しかない。それが生きちゅうことではないかい。生きちゅうき、悲しいがや。生きちゅうき、苦しいがや。生きちゅうき、いつか元気になって、きっと笑える日が来るがや(僕らはみんな生きている、詩 やなせたかし)。

たかしは、駅で父親を探すのぶちゃんに、駅に迎えにきたのぶちゃんと父親の絵を渡します。のぶちゃんは絵を抱きしめます。
人間の苦痛(total pain)は、①身体的苦痛(physical pain)、②精神的苦痛(mental pain )、③社会的苦痛(social pain)、④霊的苦痛(spiritual pain)に分類されます。①と②は鎮痛薬や抗不安薬などで対処か可能ですが、③に関しては環境調整が必要であり、④に関してはスピリチュアルケアが必要です。

「魂(spirituality)」は、自然界に親しみ、感じ、そこにある人智を超えた力に畏敬の念を持つことで育まれます。スピリチュアルケアでは「すべての病は魂のエネルギーが抑圧された結果である」と考え、魂のエネルギーを高めることを目的とします。WHO の定義によれば「スピリチュアリティは宗教と同義ではない。それは、人生に意味を見出すことや、他者・宇宙とのつながりを見つけることに関係している」とされています。
では、魂のエネルギー(spiritual well-being )を高めるにはどうしたらいいでしょうか。
27歳で京セラを創業し、78歳で日本航空再建に取り組んだ稲盛和夫氏(1932-2022)の行動義をご紹介したいと思います。
1 誰にも負けない努力をする
2 謙虚にして驕らず
3 反省のある毎日を送る
4 生きていることに感謝する→自然の摂理によって生かされている
5 善行、利他行を積む→陰徳を重ねる。思いやりの心を持つ
6 感性的な悩みをしない→くよくよ悩まず新しい行動に移る
2009年10月15日に行われた鹿児島大学工学部稲盛学生賞・授賞式での特別講義 「活きる力」より稲盛和夫氏は「人生と経営」の中で「経営には権謀術数(戦略・戦術)は全く必要ない、今日一日を一生懸命に生きさえすれば、未来は開けてくる」と述べています。「一生懸命苦労して努力してきた結果、魂が磨かれて人間性が向上していきます」と続きます。
「一生懸命に『誰にも負けない努力をする』と同時に『反省する』ということを毎日繰り返していけば、魂は純化され、浄化され、美しい魂へ、また善き魂へ変わっていくと私は信じています」と締めくくっています。
魂のエネルギーが高い人は、うつ病や不安が少ない、人生に満足している、人に優しくでる、病気の回復が早くなる ということがわかっています。
現代社会は「心の時代(Mind from Matter)」と言われています。心とは単なる精神を意味するだけでなく生命の根本にある魂と考えて、それを高める視点が大切になります。
アンパンマンは、お腹をすかせた人に自分の顔の一部をちぎって与える、究極の利他精神を持ったヒーロです。この素晴らしい絵本を読んで育った40代以下の人々が、これからの日本を支えてくれると思うと心がほっこりします。
以上です。
参考文献
『生き方―人間として一番大切なこと』(稲盛和夫、サンマーク出版 2004)
Handbook of Religion and Health 2012
その71 しなやかな血管をつくりましょう
高血圧で通院中の方に「胸のレントゲンを撮りましょう」と勧めると「人間ドックでやっ
たばかりです」と答える方がいます。
下の2枚の写真をご覧ください。当院に高血圧で通院中のOさんの胸部レントゲン写真で
す。左は2018年右は2025年に撮影したものです。

我々循環器専門医が何を見てるかと言うと、肺、骨はもちろんですが、心臓の大きさや形
の経時変化です。具体的には,
胸の幅と心臓(写真真ん中のひょうたんみたいな白い影)の幅の比率(心胸郭比:CTR Cost
Thoracic Ratio)を計測します。下の図はそれを計測したものです。

2018年は46.7%、2025年は45.1%となっています。7年間でCTRが1.6%減少しています。心
臓が小さくなっているのです。心臓はゴム風船のような臓器で、その大きさは体の環境に
より、短時間で変化します。
CTR50%以上を心陰影拡大といい、心臓に負担がかかっていることを示します。心陰影が
拡大している(拡大していなくても)ときは、1)心肥大 心臓の壁が厚くなっている、2)心拡
大 心臓の内腔が広がっている、と2つの病態が考えられます。

心肥大は、心臓の肥満状態で酸素消費が高まるので、息切れや胸痛の原因となります。心
拡大は、心臓の筋肉が減少しているため、収縮力が低下し体に循環する血液量が低下し、
息切れやむくみをきたします。胸部X線では心臓の影を見ていますので、心臓の構造を確
認するために、超音波検査を行います。胸にジェルを塗って、プローべより超音波を当て
て、心臓の断面を観察して計測します。
尚、胸部X写真による放射線被曝は0.1mSv(シーベルト)で、年間自然放射線被曝量
2.1mSvと比べても十分に低く(胸部CTは5mSv)、年間100mSv以下の被曝では健康影響の明確
な証拠はないと言われています*。怖がらずに進んで検査を受けましょう。

心臓は身体中に血液を起きるポンプですが、心臓への負担は、心臓に入ってくる血液量
(前負荷)と心臓から出てゆく時の抵抗(後負荷)の程度に左右されます。前負荷は、血液量
に規定されるので、肥満や塩分を取り過ぎると大きくなります。後負荷は動脈硬化(高血
圧、糖尿病、脂質異常症)で血管が硬くなると高くなります。
心臓への負担を下げるためには、体重を適正に、塩分を取りすぎず、柔らかい血管を保つ
ことが大切です。
動脈硬化は、男性は40歳頃から女性は50歳頃から始まります。動脈硬化を防ぐには、
①食事 ②運動 ③ストレス軽減 ④睡眠 ⑤禁煙 が重要です。
健康診断で、肥満、高血圧、脂質異常、高血糖、心拡大などを指摘された方は、自分の心
臓の大きさ(CTR)を確認してみましょう。
冒頭にお示ししたOさんは、高血圧症、高コレ
ステロール血症で薬物治療中で、7年間毎月きちんと通院されています。週末は30分程度
ジョギングをしているとのことです。もうすぐ定年を迎えるとのことですが、心臓の状態
は7年前と比べて良くなっています。
動脈硬化は万病の元ですので、しなやかな血管をつくるよう生活習慣を心がけましょう。
以上です。
*日本放射線影響学会 「低線量放射線の人体影響」2019年
たばかりです」と答える方がいます。
下の2枚の写真をご覧ください。当院に高血圧で通院中のOさんの胸部レントゲン写真で
す。左は2018年右は2025年に撮影したものです。


我々循環器専門医が何を見てるかと言うと、肺、骨はもちろんですが、心臓の大きさや形
の経時変化です。具体的には,
胸の幅と心臓(写真真ん中のひょうたんみたいな白い影)の幅の比率(心胸郭比:CTR Cost
Thoracic Ratio)を計測します。下の図はそれを計測したものです。


2018年は46.7%、2025年は45.1%となっています。7年間でCTRが1.6%減少しています。心
臓が小さくなっているのです。心臓はゴム風船のような臓器で、その大きさは体の環境に
より、短時間で変化します。
CTR50%以上を心陰影拡大といい、心臓に負担がかかっていることを示します。心陰影が
拡大している(拡大していなくても)ときは、1)心肥大 心臓の壁が厚くなっている、2)心拡
大 心臓の内腔が広がっている、と2つの病態が考えられます。

心肥大は、心臓の肥満状態で酸素消費が高まるので、息切れや胸痛の原因となります。心
拡大は、心臓の筋肉が減少しているため、収縮力が低下し体に循環する血液量が低下し、
息切れやむくみをきたします。胸部X線では心臓の影を見ていますので、心臓の構造を確
認するために、超音波検査を行います。胸にジェルを塗って、プローべより超音波を当て
て、心臓の断面を観察して計測します。
尚、胸部X写真による放射線被曝は0.1mSv(シーベルト)で、年間自然放射線被曝量
2.1mSvと比べても十分に低く(胸部CTは5mSv)、年間100mSv以下の被曝では健康影響の明確
な証拠はないと言われています*。怖がらずに進んで検査を受けましょう。

心臓は身体中に血液を起きるポンプですが、心臓への負担は、心臓に入ってくる血液量
(前負荷)と心臓から出てゆく時の抵抗(後負荷)の程度に左右されます。前負荷は、血液量
に規定されるので、肥満や塩分を取り過ぎると大きくなります。後負荷は動脈硬化(高血
圧、糖尿病、脂質異常症)で血管が硬くなると高くなります。
心臓への負担を下げるためには、体重を適正に、塩分を取りすぎず、柔らかい血管を保つ
ことが大切です。
動脈硬化は、男性は40歳頃から女性は50歳頃から始まります。動脈硬化を防ぐには、
①食事 ②運動 ③ストレス軽減 ④睡眠 ⑤禁煙 が重要です。
健康診断で、肥満、高血圧、脂質異常、高血糖、心拡大などを指摘された方は、自分の心
臓の大きさ(CTR)を確認してみましょう。
冒頭にお示ししたOさんは、高血圧症、高コレ
ステロール血症で薬物治療中で、7年間毎月きちんと通院されています。週末は30分程度
ジョギングをしているとのことです。もうすぐ定年を迎えるとのことですが、心臓の状態
は7年前と比べて良くなっています。
動脈硬化は万病の元ですので、しなやかな血管をつくるよう生活習慣を心がけましょう。
以上です。
*日本放射線影響学会 「低線量放射線の人体影響」2019年
その70 継続と自己肯定
先日、私が通っている合気道道場の鏡開き式がありました。そこで合気道六段を允可(いんか、武道で昇段の際に用いられる文言で、許すという意味)された80代の方が、ご挨拶されました。「継続する上で大切なことは『自己肯定』だと思います」と。
稽古を続けて行く途中「自分はダメだ、下手くそだ、いくらやっても上手くならない、もうやめよう」と考えたり、逆に「週5回稽古に来て、短期間で黒帯をとった。自分はよくやったからもういいや」と考えたりしてやめるケースが多いのです。その証拠に、道場の名札は初段の人が一番多く、初段をとると稽古から離れてしまう人が多くみられます。
前者は、自分の達成を内面的に認めることができない、いわゆるインポスター(詐欺師)体験といい、1978年米国女性心理学者Clance, P.R.によって提唱されました。後者は、バーンアウト(燃えつき)と言われ、過剰なストレスが影響して稽古を継続できなくなります。いずれの状態も、自己肯定を高めることで回避できるとされています。
また、メンタル不調の方から「自己嫌悪しかないんです」とう言葉をよく聞きます。心身のエネルギーが低下している時に「自己肯定」すること、つまり自分を褒めるということは難しいと思います。「自己肯定」は「自己受容」すること、ありのままの自分を受け入れること、と説明されることもありますが、具体的にどうすればいいのでしょうか。
ここからは私見ですが、次の3つの絵をご覧ください。

赤いハートは自分のこころを示しています。こころの内側の水がこころの外側の水に反応せず、波一つない状態(明鏡止水)が理想です。全く水面が乱れないようにすることは難しいと思いますが、自分を他人と比べないことが大切です。

次の絵はうねる海面にボートに乗った自分を現したものです。うねる海面は気分の波を表しています。
気分が落ち込みそうになった時に無理をしてボートを漕いで進もうとすると、疲れてしまい、余計に落ち込む可能性があります。このような時は、くらげのように体の力を抜いて、気分の波に身を任せると時間とともに自然と気分が回復します。

しかし、いつまでも自然に任せていては進歩はありません。左の図は、こころの中に毛糸の糸が散乱している状態を示しています。若い人はまだ毛糸を巻きとる時間が少なく(経験が少なく)、毛糸の玉も小さく不安定な心性なることは仕方ありません。歳とともに色々と経験を重ねることで、それは徐々に大きくなっていきます。途中で解けてしまうこともあるかもしれませんが、コツコツと巻いていくと芯が大きくなります。そうして絶対的な自己、唯一無二の自己をどんどん成長させます。
「継続は力なり(Practice makes perfect)」と言われますが、継続するためには「自己肯定」が必要で、それはすなわち①他人と比べない、②無理をしない、③できることをコツコツ行うのがよいのではないかと私は考えています。
皆さんは、合気道の演武をご覧になったことはあるでしょうか。合気道の素晴らしいところは、試合がないことです。他者と競い合うのではなく、相手と型稽古を繰り返し、お互いを尊重して技を高めていきます。年齢を重ねれば重ねるほど技に磨きがかかります。私の師範は70代と80代の方ですが、全く抵抗できません。凄いです。
今年はできるだけ稽古をして、少しでも自分の芯を大きくしたいと思っています。
以上です。
合気道 鈴木俊雄師範
Clance, P.R.; Imes, S.A. (1978). “The imposter phenomenon in high achieving women: dynamics
and therapeutic intervention.”Psychotherapy: Theory, Research and Practice 15 (3): 241–247.
doi:10.1037/h0086006.
HJ Freudenberger (1974).”Staff Burnout”. Journal of social issues
稽古を続けて行く途中「自分はダメだ、下手くそだ、いくらやっても上手くならない、もうやめよう」と考えたり、逆に「週5回稽古に来て、短期間で黒帯をとった。自分はよくやったからもういいや」と考えたりしてやめるケースが多いのです。その証拠に、道場の名札は初段の人が一番多く、初段をとると稽古から離れてしまう人が多くみられます。
前者は、自分の達成を内面的に認めることができない、いわゆるインポスター(詐欺師)体験といい、1978年米国女性心理学者Clance, P.R.によって提唱されました。後者は、バーンアウト(燃えつき)と言われ、過剰なストレスが影響して稽古を継続できなくなります。いずれの状態も、自己肯定を高めることで回避できるとされています。
また、メンタル不調の方から「自己嫌悪しかないんです」とう言葉をよく聞きます。心身のエネルギーが低下している時に「自己肯定」すること、つまり自分を褒めるということは難しいと思います。「自己肯定」は「自己受容」すること、ありのままの自分を受け入れること、と説明されることもありますが、具体的にどうすればいいのでしょうか。
ここからは私見ですが、次の3つの絵をご覧ください。

赤いハートは自分のこころを示しています。こころの内側の水がこころの外側の水に反応せず、波一つない状態(明鏡止水)が理想です。全く水面が乱れないようにすることは難しいと思いますが、自分を他人と比べないことが大切です。

次の絵はうねる海面にボートに乗った自分を現したものです。うねる海面は気分の波を表しています。
気分が落ち込みそうになった時に無理をしてボートを漕いで進もうとすると、疲れてしまい、余計に落ち込む可能性があります。このような時は、くらげのように体の力を抜いて、気分の波に身を任せると時間とともに自然と気分が回復します。

しかし、いつまでも自然に任せていては進歩はありません。左の図は、こころの中に毛糸の糸が散乱している状態を示しています。若い人はまだ毛糸を巻きとる時間が少なく(経験が少なく)、毛糸の玉も小さく不安定な心性なることは仕方ありません。歳とともに色々と経験を重ねることで、それは徐々に大きくなっていきます。途中で解けてしまうこともあるかもしれませんが、コツコツと巻いていくと芯が大きくなります。そうして絶対的な自己、唯一無二の自己をどんどん成長させます。
「継続は力なり(Practice makes perfect)」と言われますが、継続するためには「自己肯定」が必要で、それはすなわち①他人と比べない、②無理をしない、③できることをコツコツ行うのがよいのではないかと私は考えています。
皆さんは、合気道の演武をご覧になったことはあるでしょうか。合気道の素晴らしいところは、試合がないことです。他者と競い合うのではなく、相手と型稽古を繰り返し、お互いを尊重して技を高めていきます。年齢を重ねれば重ねるほど技に磨きがかかります。私の師範は70代と80代の方ですが、全く抵抗できません。凄いです。
今年はできるだけ稽古をして、少しでも自分の芯を大きくしたいと思っています。
以上です。
合気道 鈴木俊雄師範
Clance, P.R.; Imes, S.A. (1978). “The imposter phenomenon in high achieving women: dynamics
and therapeutic intervention.”Psychotherapy: Theory, Research and Practice 15 (3): 241–247.
doi:10.1037/h0086006.
HJ Freudenberger (1974).”Staff Burnout”. Journal of social issues