その14 健康診断と人間ドック
新型コロナウイルスの話題が続きましたので、今回は健康管理についてまとめてみました。
労働安全法により事業主は労働者に雇い入れ時と年に1度の定期健康診断を義務付けています。費用は会社負担です。
それ以外に健保組合などの助成金を利用して、個人的に予約をして人間ドックを受ける方もいると思います。胃カメラ、大腸カメラ、腹部超音波、マンモグラフィー、脳ドックさらにはCTによる内臓脂肪などをオプションにつける方もいます。ところが最近は過剰な検査が問題になっています。
今日のテーマは、「健康診断のオプションはどの程度つけたらいいのか」 という話です。
まずがん検診についてです。現在わが国で広く行われている5部位の 癌検診(胃・大腸・子宮・乳房・肺)。そのうち無作為比較試験で有効性が認められているのは、大腸がん(便潜血)と乳がん(マンモグラフィ)の検診ですが、その効果(死亡率減少)は13~36%と微々たるものです。
最近問題になっているのは、以下のようながん検診の不利益です。
1)偽陽性
検査の精度は100%ではありませんから、がんではない人に「がんの疑いあり」という「偽陽性」と呼ばれる結果が出ることがあります。
2)レングス・バイアスド・サンプリング
進行が遅いがんは早く見つかるが、進行の早いがんは年に一度の検診から漏れてしまう。進行に20~30年かかるものを早期に見つけてしまうと、もしかしたら死ぬまで問題にならなかったものまで治療することになります。一方で「毎年検診を受けていたのになんで見つからなかったんだ」と悩むことになります。
上記のような、「過剰診断」「過剰治療」が問題になっています。見つけなくてもいい癌を見つけて、必要のない治療が行われるという意味です。賢明な国民はそのようなことを認識しているのかどうかわかりませんが、がん検診受診率は肺がん検診を除いて50%未満です。以下に厚労省が提唱するがん検診と男女別の受診率、米国の基準を示します。米国では検診対象者の年齢に上限があります。
◯肺がん (男51%、女41%)
(厚労省)40歳以上。毎年胸部X線および喀痰細胞診
(米国)55歳から80歳で、ハイリスク男性患者(喫煙20本20年以上、禁煙して15年以内、)にLDCT(Low Dose CT 線量が10分の1 (1 mSv)検査を行う。
◯胃がん (男46%、女35%)
(厚労省)50歳以上。バリウム検査か上部消化管内視鏡、2年に1度、ABCD検診でAの人は不要。
(米国)特に定めなし。
◯大腸癌がん (男44%、女38%)
(厚労省)40歳以上。毎年便潜血検査
(米国)50才以上75歳以下の人は毎年便潜血検査。大腸ファイバーは異常がなければ10年に一度で十分。
◯乳がん (受診率45%)
(厚労省)40歳以上。2年に1度マンモグラフィー(触診、視診は推奨しない)
(米国)50歳から75歳まで2年ごとにマンモ. 家族歴のある人は40代前半で行う。
◯子宮がん (受診率42%)
(厚労省)20歳以上子宮頸部の細胞診および内診、2年に1度
(米国)21歳以上で始め、陰性であれば3年後。30から65歳の人も検査を行い陰性であれば、3年後に行う。HPV テストが陰性だった場合は5年毎に行う。
有効性が否定的な健診
<腫瘍マーカー> 擬陽性が多い。腫瘍の治療経過の指標とし用いる。
<消化管バリウム造影> 粘膜の色合いが不明であり、バリウムによる便秘や胃もたれが多い。X線被爆が問題となる。
< CTによる内臓脂肪> X線被爆が問題となる。
解像度が低く、偽陽性、偽陰性が多い。放射線被爆。高額。
結論
以上のことから考えますと、絶対に受けたほうがいい癌検診はなさそうです。がんは細胞内の遺伝子が傷つくことにより、細胞が異常に増殖することで発生します。遺伝子を傷つけることとしては、ストレス、運動不足、偏った食事、喫煙、飲酒などがありますので、生活習慣の改善が一番の予防につながります。ただし、遺伝するがんが知られていますので、そのような場合は定期的な検診が必要です。
以上です。
参考
厚労省ウェブサイト
臨床と研究 2019;96:884-8.
Choosing Wisely (米国内科学会)
労働安全法により事業主は労働者に雇い入れ時と年に1度の定期健康診断を義務付けています。費用は会社負担です。
それ以外に健保組合などの助成金を利用して、個人的に予約をして人間ドックを受ける方もいると思います。胃カメラ、大腸カメラ、腹部超音波、マンモグラフィー、脳ドックさらにはCTによる内臓脂肪などをオプションにつける方もいます。ところが最近は過剰な検査が問題になっています。
今日のテーマは、「健康診断のオプションはどの程度つけたらいいのか」 という話です。
まずがん検診についてです。現在わが国で広く行われている5部位の 癌検診(胃・大腸・子宮・乳房・肺)。そのうち無作為比較試験で有効性が認められているのは、大腸がん(便潜血)と乳がん(マンモグラフィ)の検診ですが、その効果(死亡率減少)は13~36%と微々たるものです。
最近問題になっているのは、以下のようながん検診の不利益です。
1)偽陽性
検査の精度は100%ではありませんから、がんではない人に「がんの疑いあり」という「偽陽性」と呼ばれる結果が出ることがあります。
2)レングス・バイアスド・サンプリング
進行が遅いがんは早く見つかるが、進行の早いがんは年に一度の検診から漏れてしまう。進行に20~30年かかるものを早期に見つけてしまうと、もしかしたら死ぬまで問題にならなかったものまで治療することになります。一方で「毎年検診を受けていたのになんで見つからなかったんだ」と悩むことになります。
上記のような、「過剰診断」「過剰治療」が問題になっています。見つけなくてもいい癌を見つけて、必要のない治療が行われるという意味です。賢明な国民はそのようなことを認識しているのかどうかわかりませんが、がん検診受診率は肺がん検診を除いて50%未満です。以下に厚労省が提唱するがん検診と男女別の受診率、米国の基準を示します。米国では検診対象者の年齢に上限があります。
◯肺がん (男51%、女41%)
(厚労省)40歳以上。毎年胸部X線および喀痰細胞診
(米国)55歳から80歳で、ハイリスク男性患者(喫煙20本20年以上、禁煙して15年以内、)にLDCT(Low Dose CT 線量が10分の1 (1 mSv)検査を行う。
◯胃がん (男46%、女35%)
(厚労省)50歳以上。バリウム検査か上部消化管内視鏡、2年に1度、ABCD検診でAの人は不要。
(米国)特に定めなし。
◯大腸癌がん (男44%、女38%)
(厚労省)40歳以上。毎年便潜血検査
(米国)50才以上75歳以下の人は毎年便潜血検査。大腸ファイバーは異常がなければ10年に一度で十分。
◯乳がん (受診率45%)
(厚労省)40歳以上。2年に1度マンモグラフィー(触診、視診は推奨しない)
(米国)50歳から75歳まで2年ごとにマンモ. 家族歴のある人は40代前半で行う。
◯子宮がん (受診率42%)
(厚労省)20歳以上子宮頸部の細胞診および内診、2年に1度
(米国)21歳以上で始め、陰性であれば3年後。30から65歳の人も検査を行い陰性であれば、3年後に行う。HPV テストが陰性だった場合は5年毎に行う。
有効性が否定的な健診
<腫瘍マーカー> 擬陽性が多い。腫瘍の治療経過の指標とし用いる。
<消化管バリウム造影> 粘膜の色合いが不明であり、バリウムによる便秘や胃もたれが多い。X線被爆が問題となる。
< CTによる内臓脂肪> X線被爆が問題となる。
結論
以上のことから考えますと、絶対に受けたほうがいい癌検診はなさそうです。がんは細胞内の遺伝子が傷つくことにより、細胞が異常に増殖することで発生します。遺伝子を傷つけることとしては、ストレス、運動不足、偏った食事、喫煙、飲酒などがありますので、生活習慣の改善が一番の予防につながります。ただし、遺伝するがんが知られていますので、そのような場合は定期的な検診が必要です。
以上です。
参考
厚労省ウェブサイト
臨床と研究 2019;96:884-8.
Choosing Wisely (米国内科学会)