その60 心の器を広げるということ
4月になると周囲の環境の変化が色々とあると思います。自分の異動はなくても、退職される人、新入社員など人の入れ替わりがあると環境が変わります。人は新しい環境に置かれると、軽微な緊張感や疲労感が蓄積して、脳の働きが低下してきます。車で例えるなら、エンジンオイルが古くなって、アクセルを踏んでも吹け上がらないような状態です。
一時的に疲れがたまって作業効率が上がらない時は、大きく伸びをしてあくびをすると、新鮮な空気が体に取り込まれ、リフレッシュできることは皆さんもよくご存知だと思います。ところが、疲労蓄積が慢性化すると、何をやってもなかな頭が働かなくなってしまいます。やる気がなくなったり(意欲低下)、気分が落ちこんだり(抑うつ気分)、同じことを堂々めぐりで考えてしまう(反芻思考)などの症状が2週間以上続く時は、うつ状態と言われます。
うつ状態とうつ病の違いは何?とよく質問を受けますが、「状態」とは今現れている症状のことを指します。「病」とは医学的な病名になります。うつ状態を呈する病名はたくさんあります。甲状腺機能低下症(他ホルモン異常)、脳梗塞、パーキンソン病、認知症、アルコール依存症、統合失調症、躁うつ病、うつ病、神経発達症、更年期症候群などです。
我々精神科医は、うつ状態の人を見た時は、他の病気が隠れていないか、血液検査や必要であれば頭部MRIなどを行います。他の病気が考えにくい時に初めて「うつ病」と診断します。また、人事部の方から「うつ病」と「適応障害」はどう違うのかと質問されることがあります。「適応障害」は、3ヶ月以内のストレス要因が原因で発症し、ストレス要因がなくなれば半年以内に症状が改善するものを指しますが、両者の線引きは非常に困難です。
ここからは私見ですが、心の中に①のようなコップ(心の器)があり、ストレスで水が溢れてしまった状態を「適応障害」とします。大体1ー2ヶ月も休んでコップの水を空にすれば、回復します。ところがストレスを受けすぎて、②のようにコップが小さくなってしまうとどうでしょう。中の水を空にしても、またストレスを受ければすぐに溢れてしまいます。このおちょこの状態がうつ病です。
おちょこのように小さくなってしまった心の器は、自分の努力ではもとのコップに戻すことは難しいです。脳の中の神経伝達物質のバランスが崩れているので、適切な薬物療法が必要です。薬を飲むことで、おちょこ程度の心の器は1週間ぐらいで、コップの大きさまで戻ります。精神科の治療では、このコップを③のように大きなタンクぐらいに広げることを目標とします。心の器が大きくなると、ストレスを受けても全然平気ですし、ストレスを自分で流すこともできるのです。
心の器をコップ以上に広げるには、薬物療法だけでは困難です。そのためには自己管理を再確認する必要があります。心の器を広げる自己管理は、①姿勢、②呼吸法、③ 考え方です。①は上虚下実(自下半身に力を込めて上半身をぶらぶらにすること(くらげ状態)) 。これにより頭の血流が増えて、気持ちがリラックスします。②は禅の呼吸といって、ゆっくりと鼻から息を吐くこと。息を吐くと心拍数が遅くなり気持ちが落ち着きます。③考え方は、自分も他人も全てを許すことです。合言葉は「まあいいか」です。「~すべき」という考えにとらわれると、緊張感が生じ、頭が疲れてしまいます。
心の器が大きくなると、今まで苦手だった環境においても、リラックスした状態保つことができます。人間の心の器は年と共に自然に大きくなります。そして、死ぬ直前が無限大になります。皆さんも通勤中や会議中に上に示した自己管理を行ってみて下さい。頭がスッキリして気持ちが前向きになります。私もいつもこれを意識して診療しています。全然疲れません。
以上です。
参考)くらげ体操 https://www.sannoclinic.jp/cafe/archives/art/00062.html
一時的に疲れがたまって作業効率が上がらない時は、大きく伸びをしてあくびをすると、新鮮な空気が体に取り込まれ、リフレッシュできることは皆さんもよくご存知だと思います。ところが、疲労蓄積が慢性化すると、何をやってもなかな頭が働かなくなってしまいます。やる気がなくなったり(意欲低下)、気分が落ちこんだり(抑うつ気分)、同じことを堂々めぐりで考えてしまう(反芻思考)などの症状が2週間以上続く時は、うつ状態と言われます。
うつ状態とうつ病の違いは何?とよく質問を受けますが、「状態」とは今現れている症状のことを指します。「病」とは医学的な病名になります。うつ状態を呈する病名はたくさんあります。甲状腺機能低下症(他ホルモン異常)、脳梗塞、パーキンソン病、認知症、アルコール依存症、統合失調症、躁うつ病、うつ病、神経発達症、更年期症候群などです。
我々精神科医は、うつ状態の人を見た時は、他の病気が隠れていないか、血液検査や必要であれば頭部MRIなどを行います。他の病気が考えにくい時に初めて「うつ病」と診断します。また、人事部の方から「うつ病」と「適応障害」はどう違うのかと質問されることがあります。「適応障害」は、3ヶ月以内のストレス要因が原因で発症し、ストレス要因がなくなれば半年以内に症状が改善するものを指しますが、両者の線引きは非常に困難です。
ここからは私見ですが、心の中に①のようなコップ(心の器)があり、ストレスで水が溢れてしまった状態を「適応障害」とします。大体1ー2ヶ月も休んでコップの水を空にすれば、回復します。ところがストレスを受けすぎて、②のようにコップが小さくなってしまうとどうでしょう。中の水を空にしても、またストレスを受ければすぐに溢れてしまいます。このおちょこの状態がうつ病です。
おちょこのように小さくなってしまった心の器は、自分の努力ではもとのコップに戻すことは難しいです。脳の中の神経伝達物質のバランスが崩れているので、適切な薬物療法が必要です。薬を飲むことで、おちょこ程度の心の器は1週間ぐらいで、コップの大きさまで戻ります。精神科の治療では、このコップを③のように大きなタンクぐらいに広げることを目標とします。心の器が大きくなると、ストレスを受けても全然平気ですし、ストレスを自分で流すこともできるのです。
心の器をコップ以上に広げるには、薬物療法だけでは困難です。そのためには自己管理を再確認する必要があります。心の器を広げる自己管理は、①姿勢、②呼吸法、③ 考え方です。①は上虚下実(自下半身に力を込めて上半身をぶらぶらにすること(くらげ状態)) 。これにより頭の血流が増えて、気持ちがリラックスします。②は禅の呼吸といって、ゆっくりと鼻から息を吐くこと。息を吐くと心拍数が遅くなり気持ちが落ち着きます。③考え方は、自分も他人も全てを許すことです。合言葉は「まあいいか」です。「~すべき」という考えにとらわれると、緊張感が生じ、頭が疲れてしまいます。
心の器が大きくなると、今まで苦手だった環境においても、リラックスした状態保つことができます。人間の心の器は年と共に自然に大きくなります。そして、死ぬ直前が無限大になります。皆さんも通勤中や会議中に上に示した自己管理を行ってみて下さい。頭がスッキリして気持ちが前向きになります。私もいつもこれを意識して診療しています。全然疲れません。
以上です。
参考)くらげ体操 https://www.sannoclinic.jp/cafe/archives/art/00062.html