2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム(日本糖尿病学会)
2022-9-5日本糖尿病学会が「2型糖尿病の薬物療法のアルゴリズム」を公表した。

作成の背景として,3 つのことが挙げられる.

1 つ目は,欧米人と日本人の糖尿病の病態の違いである.欧米人においてはインスリン抵抗性主体の肥満糖尿病が多いのに対し,日本人では肥満と非肥満が半々で,日本人 2 型糖尿病の発症にはインスリン分泌能の低下がより深く関連していると考えられる.

2 つ目は,欧米と日本の 2 型糖尿病の治療戦略の違いである.欧米では 2021 年度版まで,初回処方薬としてビグアナイド薬が推奨されてきた.

3 つ目として,National Database の解析により日本の 2型糖尿病の初回処方の実態が実際に欧米とは大きく異なることが明らかになったことが挙げられる(J Diabetes Investig. 13:280-291, 2022).

海外ではビグアナイドが第一選択であるが、日本ではDPP4が好んで使用される。

若年成人発症型糖尿病(maturity onset diabetes of theyoung;MODY)に関わるパスウェイが両民族集団において 2 型糖尿病と最も強く関連している。



1. インスリンの適応の評価と目標 HbA1c の設定
目標HbA1c:理想は7.0未満であるが、75歳以上においてはゆるく設定する(8未満)。

2. 2 型糖尿病における肥満合併の評価の重要性
2 型糖尿病の病態であるインスリン分泌不全およびインスリン抵抗性を臨床的に評価するには,インスリン分泌指数(II, insulinogenic index)やC-peptide indexなどのインスリン分泌能に関する指標や HOMA-IR などのインスリン抵抗性に関する指標が有用であるが,common disease である 2 型糖尿病全例に対してそれらの評価を行うことは現実的には困難と考えられる.

肥満度(BMI)とインスリン抵抗性には正相関があるため,肥満度が高い症例ではインスリン抵抗性の 2 型糖尿病の病態への寄与度が高いと考えられる。

肥満症例における薬剤の候補としては,インスリン分泌非促進系のビグアナイド薬,SGLT2 阻害薬,チアゾリジン薬などに加え,インスリン分泌促進系薬剤の中では体重減少効果が期待できるGLP-1受容体作動薬やインスリン抵抗性改善作用を併せ持つイメグリミン(ツイミーグ)も良い適応であると考えられる.

非肥満の 2 型糖尿病の多くは,インスリン分泌不全が病態の主体であるため,インスリン分泌促進系薬剤を中心に薬剤選択を行う.DPP-4 阻害薬は本邦の 2 型糖尿病の初回処方として最も多く選択されている。メトホルミンは日本人において非肥満においても肥満と同程度のHbA1c 低下作用を示すことから,非肥満例でも候補薬の一つとなりうる。

体重減少をきたしやすい糖尿病治療薬(GLP-1受容体作動薬および SGLT2 阻害薬)を痩せの症例に使用する場合には16),サルコペニアやフレイルなどの老年症候群のリスクを高める可能性がある。

血糖非依存性インスリン分泌促進薬(SU 薬およびグリニド薬)の多くは腎排泄型であるため,腎機能低下者では低血糖リスクが高まる可能性がある



3.安全性への配慮
1)低血糖リスクの高い血糖非依存性インスリン分泌促進薬であるSU 薬およびグリニド薬の高齢者への使用に関する注意喚起,
2)頻度の高い併
存症である腎機能障害合併時の薬剤選択の注意点,
3)心不全合併例における禁忌薬をフロー中に記載 欧米では心不全合併糖尿病におけるメトホルミンの心不全入院や死亡リスク低下の報告48~50)から,心不全例のメトホルミンの禁忌は解除されている。

‌4.Additional benefits を考慮すべき併存疾患
i)心血管疾患
心血管疾患を合併した 2 型糖尿病においては,SGLT2阻害薬,次いで GLP-1 受容体作動薬を推奨度の高い候
補薬とした.

ii)心不全
心不全合併 2 型糖尿病においては,SGLT2 阻害薬を第一選択薬とした.

iii)慢性腎臓病(特に顕性腎症)
アルブ
ミン尿(特に顕性腎症期相当)を有する症例においては,血糖降下作用にかかわらず SGLT2 阻害薬を第一選択薬として考慮すべきである

5.考慮すべき患者背景(Step 4)
服薬遵守率→高齢化が著しい本邦においては,服薬回数をなるべく減らし,一包化や合剤の使用を含めた服薬管理が重要と考えられる.

医療費→糖尿病の医療費は脳血管障害,虚血性心疾患や人工透析を含めた生活習慣病関連 10 疾患のうち,入院医療費の第 3 位,入院外医療費の第 1 位

6.定期的な治療効果の判定と治療調整の必要性の判断
治療法の再評価と修正を検討するサイクルをおよそ 3 か月ごととし,糖尿病の病態や腎症等の合併症に沿った食事療法,運動療法,生活習慣の改善を促すと同時に,薬物療法の修正をする。

日本糖尿病学会誌第65巻第8号
2022.10.13 10:10 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 診断治療

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