その27 「聞く(hear)」ことと「聴く(listen) 」こと
いよいよワクチン接種も佳境に入り、今月末にはオリパラが開催されます。各国から選手団が入国し、その笑顔を見るとコロナ禍の暗い気持ちが少しは晴れるような気がします。大リーグの大谷選手も大活躍していて、私達の気持ちを元気づけてくれています。

一方でコロナ禍によってうつ病やうつ状態の人の割合が増加していることが報告されています。経済協力開発機構(OECD)による日本のうつ状態の人の割合は、2013年調査で7.9%が2020年には17.2%と倍増しています。

昨年出版された「スマホ脳(アンデシュ・ハンセン スェーデンの精神科医)」によると、人間のメンタルヘルスを良好に保つ上で、「睡眠」「運動」「人とのつながり」が重要であると述べています。

コロナの影響で人との関係が希薄になっていますが、気分がすぐれない時は信頼している人に電話してみるのもお勧めです。今日のテーマは「聞く(hear)」と「聴く(listen)」です。

『類語国語辞典』(角川書店)によると「聞く」は、音や声を耳に感じ認める意、「 聴く」は、聞こえるものの内容を理解しようと思って進んできく意である、と記されています。困っている人や悩んでいる人が相談に来たときに、あなたはその人の話を「聴く」ことができるでしょうか。ただ「聞く」だけになってないでしょうか。

人の相談を受けた時に「それはこうしたら良い」「私の時はこうだった」「それは当然だ」などと相手の話を遮ってしまうと、相談者は「この人に話しても無駄だな」と感じて話を引っ込めてしまします。

「聴く」ためには、話の内容をストーリーとして理解することが大切です。なぜそうしたのか、その時どう思ったか、他の方法はなかったか、などといろいろ質問して、相談者の言いたいことを次々と引き出します。話の内容を否定せず、こちらの意見を押し付けず、うなずくようにしてストーリーをまとめ上げていくのです。

よく話を聴いた後に、「それは大変だったね」「困ったね」と共感し「個人的異見だけど」「こう考えてみたらどうだろう」などと自分の意見を伝えることも有効です。多くの悩みは人に話すことで問題点を再構成できるので、自然に解決策が浮かんできたり、気持ちが前向きになったりします。

私も日頃の診察で、上記のことを心がけています。患者さんから「これは別件なんですけど」とか「もう一つ伺ってもいいですか」などと言われた時は、至福の喜び(大げさか)を感じます。医師は、患者さんからの情報が多ければ多いほど正確な診断ができますので。「別件」の質問が重要な意味を持つことは、よくあります。

最後になりますが、人が相談したくなるような雰囲気(表情、優しい視線、穏やかな声、ゆったりとした動き)が普段から醸し出されていることがとても大切です。日々の忙しい業務の中、そのような雰囲気を保つことは難しいと思いますが、ぜひ心がけてみましょう。

以上です。
2021.07.08 19:40 | pmlink.png 固定リンク | folder.png 健康一口メモ

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